コラム

EU・インド急接近で変わる多極世界の地政学...「新スパイスの道」構想は前進するか

2025年03月28日(金)13時20分

EU側は欧州委員会の委員(大臣に相当)21人を伴って訪問するという、前例のない規模だったのだ。ちなみに、日EU経済連携協定の交渉のときは、日本に来たのは2人の委員のみだった(貿易担当と農業担当)。

なぜこれほどEUの姿勢は変わったのか。

もちろんトランプ政権で、米欧の同盟関係がもはや保証されなくなったからだ。さらに、もしアメリカとロシアが結託したらという懸念も大きい。

ロシアと中国の関係強化を懸念

では、インドの側ではどうだろう。

インドは独立以来「非同盟」を基盤としてきたが、過去10年ほどでは非同盟の変種である「多同盟」を基盤としてきた。これは、多極世界に対応した、より現実的(日和見的とも言える)ものである。そこにトランプ政権である。

まず、対中国はどうか。

EUは中国の台頭を懸念している。そしてインドは、ウクライナ戦争で、ロシアと中国の関係が改善していることを警戒している。

インドと中国は、ヒマラヤ山脈で領土問題を抱えている。国境線は東西に約3500キロだ(ちなみに北海道の択捉島から、沖縄の与那国島まで、約3300キロである)。

2017年に中国が両国の国境についての2003年の合意を破ると、その翌年、インドはロシアから地対空ミサイルシステムS400を購入した。総額54億ドル。

このように、インド・ロシア・中国の三角関係はバランスが重要なものになっている。

ただ、インドは貿易赤字が深刻なほど、経済的に中国に依存している。2024年のインド議会予算委員会では、多くのインドの指導者が、中国の支援なくしては工業化できないと確信していると示されたという。

インドは「世界の薬局」と言われるが、ジェネリック医薬品に含まれる中国産の有効成分が必要である。また電子機器でも、インドが輸出するiPhoneの部品は、中国製であることが多い。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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