コラム

文在寅大統領は何がしたいのか、なぜ韓国はGSOMIAで苦しむか

2019年11月29日(金)14時30分

こういう圧迫を両側から受けている国に、「GSOMIAの問題と、日本の輸入規制の問題を別にしましょう」と言っても、通じないのは無理もないかもしれない。

どうやら日本人も、もっと経済問題と軍事問題がますます一緒になってきた状況を、自覚する必要が出てきたようだ。

そして、これからますます、アメリカ主導の「自由で開かれたインド太平洋コンセプト」ならびに「日米豪印戦略対話」との対立が深まっていくかもしれない。アメリカが本気で、自国が主導で朝鮮半島を統一しようとする動きは、トランプ後には起きるのだろうか。

今回のGSOMIA問題で、アメリカが日本の主張に理解を示してくれたことは大きいし、「日本は揺るぎないパートナー」と考えてくれることは大変頼もしい。「アメリカの絶対的な信頼を得る」という日本の戦略は、間違っていない。

それでも、日韓が本格的に衝突し、中国やロシアも巻き込むような大きな事態になってきたら、常にアメリカが日本の味方についてくれるなどとは、ゆめゆめ思わないほうが良い。中露がいつまでも仲が良いとは限らないし、日本の頭上を飛び越えて、大国同士で何か日本に不利なことが決まらないとも限らない。

アメリカは遠い。隣人との関係は極めて重要である。

韓国人の気持ち

韓国人の気持ちは揺れ動いている。

GSOMIAの破棄を延長すると決める直前22日に行われた世論調査では、破棄を決めたことを支持するとの回答が51%、不支持が29%だった(韓国の世論調査会社「韓国ギャラップ」調べ)。この数字が、日本のメディアに踊っていた。

しかし、一度延長を決めたら、出てくる答えはまったく逆だった。

23日から24日のかけての調査では、文大統領の決断を70.7%が「良い決定」と評価した。「評価しない」は17.5%だった(韓国の世論調査会社「コリア・リサーチ」が放送会社「MBC」の委託を受け実施)。

これは韓国人が

「朝鮮半島の統一の夢に、はっきりNOと言うわけがない。でも、別に今統一しなくてもいい」

「自主独立できれば一番いい。でもそんなの無理。アメリカに反感はある。でも結局中国よりもアメリカ(西側)のほうがいい」

という、複雑な思いの表れなのではないか。

国の運命を変える大きな決断を前にどうしていいのかわからない――まるでブレグジットを前にしたイギリス人みたいだ。

今、日本人が韓国に対して「今まで誠実に対応してきたつもりなのに」と鬱憤や怒りがたまっているのと同じくらい、いえ、その何百倍も、韓国人はあの北朝鮮に裏切られ続けてきた。

韓国が日本に対してヒステリー気味になるのはいつも、もっと他の大きなものによって大きな緊張を強いられている時のように見える。対日観だけを見て、世論調査の結果を分析するのは、愚かなのかもしれない。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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