コラム

文在寅大統領は何がしたいのか、なぜ韓国はGSOMIAで苦しむか

2019年11月29日(金)14時30分

日本政府は「日韓基本条約」の原則を決して譲ってはいけないし、「いちいちコメントするのは生産的ではない」という冷静な対処でいいと思う。しかし前原稿で書いたように、韓国を追い詰める必要はない。

<参考記事>南北朝鮮が分断のまま朝鮮戦争と冷戦構造の終結? 意味不明な事態はなぜ起きるのか

多国間の枠組みを

それにしても、不信が芽生えている二者(二国)が密室で話し合っていると、ロクなことにならない。言っただの言わないだの......不毛だ。

しかも直球しかない。「意外な提案」、つまり変化球を投げればいいのに......。でも変化球を投げるには、第三者、あるいは多国間の枠組みが必要だ。抜き差しならない当事者の二国だけではできないのだ。

<参考記事>韓国を追い詰めず何かの「意外な」提案を。日本の国益と韓国人との友情のために:GSOMIA問題

日本と韓国の話し合いも、当事者とボスだけではなくて、もっと国際的に広い枠組みで話したほうが良い。筆者は欧州連合(EU)を見つめ続けて、多国間の集団で解決できることの何と多いことか、ドロドロになって解決できない当事者(国)たちにとって、どんなに第三者たちの存在が大事か、身に染みてわかってきた。

来日したフランシスコ法王は、11月24日長崎のスピーチで「今、拡大しつつある、相互不信の流れを壊さなくてはなりません。相互不信によって、兵器使用を制限する国際的な枠組みが崩壊する危険があるのです」と述べられた。

相互不信があるから国際的枠組みが崩壊しそうならば、国際的/多国間の枠組みがあれば、相互不信は解決を見いだせるのだと思う。

前の原稿で「国家は化け物だ」と書いた。それでも、国家をつくるのは人々である。

少なくとも韓国は民主主義国で、選挙もあるし、言論の自由もあるし、相互の自由な行き来(人の体もネットも)も可能だ。

政治家や交渉者にはクールに議論してほしいが、政治が前向きな結論に達するには、世論が重要である。

ここは心を強く持って、「韓国人との今までの交流も友情も無駄ではないはずだ。相手はこのような状況になって、私達と同じように複雑な気持ちで悩んでいるに違いない。喜んでいるはずがない」と、お互いの今までの友情を強く信じたい。それに、日韓の関係が悪くなっても、日本の国益になることは何もない。正すべきところは正す。毅然とするべきところは、毅然とする。でもそれで友情が失われるとは思わない。心が強くならなくては、解決に向かわない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、相互関税発表にらみ値動きの荒い

ビジネス

NY外為市場=ドル/円上昇、対ユーロでは下落 米相

ワールド

トランプ米大統領、「相互関税」を発表 日本の税率2

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story