コラム

世界の反イスラエルデモは倒錯している

2023年11月30日(木)17時30分
イスラエル

ニューヨークのパレスチナ支援デモ(11月17日)ANDREW KELLYーREUTERS

<奇妙なことに、世界中で右派も左派もテロ被害に遭ったイスラエルに抗議している。しかし、ガザ住民を本当に苦しめているのはハマスであり、イスラエルが軍事作戦を停止してもパレスチナは解放されない>

10月7日にイスラム過激派組織ハマスがイスラエルに対する無差別テロ攻撃で1200人以上を惨殺して以来、先進国の首都や主要都市で大規模な反イスラエルデモが続発した。日本も例外ではない。都内にあるイスラエル大使館前では連日、イスラエルを非難するデモが行われ、全国各地でも同種のデモや集会が続いている。

10月20日には中核派全学連活動家の24歳の男が、イスラエル大使館近くの路上で機動隊の男性隊員の額を、のぼりのポール部分で押し、暴行を加えた疑いで逮捕された。11月16日には車が同大使館の近くにある侵入防止用の柵に突っ込み警察官1人が負傷し、運転していた53歳の右翼団体構成員の男が逮捕された。

奇妙なことに、世界中のデモの多くはテロの被害に遭ったイスラエルに抗議している。日本のイスラエル大使館前のデモ参加者も「パレスチナ解放」「虐殺やめろ」「皆殺しやめろ」などと書かれたビラを掲げている。イスラエルの軍事作戦はハマスのインフラ破壊とハマスに拉致された約240人の人質奪還を目的としているが、彼らはそれをパレスチナ人の「虐殺」と見なし、対ハマス軍事作戦の停止が「パレスチナ解放」につながると思っているらしい。

しかし残念ながら、イスラエルが軍事作戦を停止してもパレスチナは解放されない。

ガザ地区を武力で実効支配しているのはハマスだ。地下に500㌔にも及ぶトンネルを掘ったと自ら主張し、そこに換気システムを整備し、武器を持ち込み戦闘員が隠れたり、移動したりするのに使用してきた。

トンネルの出入り口は病院や学校、子供の遊び場、モスクなどに作られ、それらの場所にはロケットランチャーが設置され、イスラエルへの無差別テロ攻撃に利用され、パレスチナ人の生活をも脅かしてきた。ハマスはガザを巨大なテロインフラへと変貌させたが、一般人が身を隠すシェルターは1つもない。一般人の安全を守るのはハマスではなく国連の責任だ、というのがハマスの主張だ。

イスラエルへ向けて発射するロケット弾の一部は誤射でガザ地区内に落下し、多くのパレスチナ人の命が失われてきた。これを「イスラエルがパレスチナ人を殺した」と発表しているのが、「ガザ保健当局」と称するハマス傘下の組織にほかならない。


プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

将来の利下げ回数、賃金など次第 FRBに左右されず

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story