コラム

自由民主主義に背を向ける中東

2023年06月16日(金)20時40分
ライシ大統領, アサド大統領

シリアでイランのライシ大統領とシリアのアサド大統領が署名(5月)YAMAM AL SHAARーREUTERS

<アサド政権が10年以上も内戦を生き抜いているのは、ロシアとイランからの手厚い軍事支援のおかげ。今年に入ってからの急速な中東諸国間の関係改善が進む「道」とは?>

中東諸国間の関係改善が進んでいる。

3月10日にイランとサウジアラビアが国交回復で合意したのに続き、4月12日にはバーレーンとカタールが国交回復で合意。5月29 日にはトルコとエジプトが互いに大使を派遣することで合意し、イランとエジプトの国交回復も近いと報じられた。

同じく5月には、2011年の内戦開始以降、反体制派に対する弾圧を理由にアラブ連盟への参加資格を停止されていたシリアの連盟復帰が認められ、アサド大統領がサウジで開催されたアラブ連盟サミットに参加した。

中東で孤立してきたイランとシリアに共通するのは、ロシアとの親密な関係だ。イランは22年にロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシアに数百機を超える無人機を供与し、実質的にロシアにとって最大の軍事支援国となっている。

イランは公式にはロシアへの軍事支援を否定しているが、一方でロシアに無人機を「侵攻開始前に少数」供与した事実は認めている。

ロシアはウクライナの首都キーウを標的に、5月だけで17回もの攻撃を実行した。パニックに陥り逃げ惑う人々の中には、通学中の子供たちの姿も多く確認されている。こうした民間人を標的にした攻撃にしばしば用いられているのがイラン製無人機「シャヘド」だ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は5月下旬、イランに対し、「毎晩ウクライナを恐怖に陥れるあなた方のシャヘドが意味するのは、イランの人々が歴史の暗黒面に深く深く追い込まれていくことだけだ」と非難した。

これに対しイランは、ゼレンスキーの批判は「妄言」であり、反イランのプロパガンダにすぎないと反論した。しかし、民間人や民間インフラを標的とした無差別でありながら意図的な攻撃は、戦争に関する国際規則における戦争犯罪に当たる。

イランはロシアの戦争犯罪に加担しているというそしりを免れない。一方シリアは、ロシアのウクライナ侵攻に賛意を表明した数少ない国の1つである。

アサド政権が11年以来続いている内戦を生き抜くことができたのは、ロシアとイランからの手厚い軍事支援があったからだ。現在もシリアにはロシアとイランの軍隊が駐留し、アサド政権軍を支援している。シリアはロシアの忠実な「臣下」でい続けなければならない状況が続く。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story