コラム

アラブのアメリカ人気は衰えず...世論調査が示した中国の限界

2023年07月12日(水)16時30分
バイデン米大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子

バイデン米大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子も蜜月? BANDAR ALGALOUD-COURTESY OF SAUDI ROYAL COURT-HANDOUT-REUTERS

<アラブの若者はアメリカと中国をどう見ている? 最新の世論調査を基に読み解く>

アメリカの時代は終わった、と言われるようになって久しい。圧倒的な超大国として世界に君臨する「一極支配」の時代は終わったという意味ならば、このナラティブは妥当だ。しかし、アメリカに代わり覇権国家と呼ばれるにふさわしい国があるかと問われれば、そこには議論の余地がある。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は3月、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話で会談し、長年対立してきたサウジとイランの外交関係正常化を中国が仲介したことについて「大きな成果を上げ、国際社会から広く評価された」と自賛。「中東地域の平和と安定、発展にさらに貢献したい」と意欲を示した。

だがこれをもって、これまで中東に大きな影響力を及ぼしていたアメリカの時代は終わり、中国の時代がやって来たと評価するのは時期尚早だ。

アラブ首長国連邦(UAE)を拠点とするコンサルティング会社ASDAʼA BCWは6月、アラブ18カ国の53都市で18~24歳の若者3600人(男女比はほぼ半々)を対象に対面で実施した世論調査の結果を公表した。同種の調査としては最も規模が大きく、今回が15回目となる。

この中で、中東地域に最も大きな影響力を及ぼしている国はどこかという質問に対し、回答者の33%はアメリカと答え、UAE(11%)、サウジ(10%)、イスラエル(10%)がこれに続いた。中国だと答えた人は4%にとどまった。

今後5年間、アメリカと中国のどちらが自国にとってより重要で強力な友好国になると思うかという質問に対しても、アメリカと回答した人が62%に上り、中国と回答した35%を大幅に上回った。

アラブの若者は中国よりアメリカのほうが重要で強力な友好国だと思っているだけではなく、中国よりアメリカのほうをより好んでいるという結果も示されている。

「どの国に住みたいか?」という質問に対して、回答者の19%はアメリカを挙げたが、中国はランキングのトップ5に入らなかった。「自国に最も見習ってほしい国はどこか?」という質問に対しても、回答者の19%はアメリカを選んだが、中国はやはりトップ5に入っていない。

中国は今やほとんどの中東諸国にとって最大の貿易相手国であり、投資や融資、企業進出や中国語教育、中国留学など、その経済的影響力が激増しているのは間違いない。6月にはUAEの政府系投資ファンドが中国の電気自動車メーカー・蔚来汽車(NIO)への10億ドル規模の投資を発表するなど、中東諸国の中国への投資も進む。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英総選挙、マードック氏の大衆紙サンが労働党支持を表

ビジネス

GM、炭素過剰排出で制裁金支払いと燃費クレジット没

ビジネス

FRB、物価圧力緩和を確認 利下げには一層の確信必

ワールド

トランプ氏支持率リード、バイデン氏高齢不安強く=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネークアイランド)奪還の映像をウクライナが公開
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「ロータス・フラワー・ティアラ」の由緒正しい歴史とは?
  • 4
    ありなの? 飛行機の隣席に40kgの大型犬アメリカン…
  • 5
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 6
    爆風で窓が吹き飛ぶ衝撃シーンを記録....「巨大な黒…
  • 7
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 8
    「地球温暖化を最も恐れているのは中国国民」と欧州…
  • 9
    北朝鮮の欠陥ノーコン弾道ミサイル、遂に首都を脅か…
  • 10
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 4
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 5
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 6
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セク…
  • 7
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 8
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 9
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス…
  • 10
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 8
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 9
    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 10
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story