- HOME
- コラム
- 疾風怒濤のイスラム世界
- 日本もひとごとではないイスラム教徒の土葬問題
日本もひとごとではないイスラム教徒の土葬問題
マスクを着用したスリランカのイスラム教徒(コロンボ) DINUKA LIYANAWATTE-REUTERS
<スリランカの人口の約1割は土葬を原則とするイスラム教徒だが、政府はコロナ死者に火葬を義務付けた。WHOはどちらでも構わないとしており、パンデミックに乗じた疎外行為の疑いが>
コロナ感染によって死亡したイスラム教徒19人の遺体を火葬する──。12月、スリランカ政府はこう発表し、イスラム教徒が強く抗議した。
スリランカでイスラム教徒は人口の約10%を占める少数派だ。多数派は仏教徒で火葬も一般化している。一方イスラム教では、啓典コーランに埋葬法についての直接的言及はないものの、土葬が原則とされ火葬は基本的に禁じられている。
イスラム教徒は「現世」はいつか必ず終末を迎え、死者は生前の姿で「復活」して「最後の審判」を受け天国か地獄に行くと信じている。
コーラン第17章70節には「われ(神)はアダムの子孫たち(人間)を尊んだ」とある。預言者ムハンマドは「死者の骨を折ることは生前にそうすることと同様である」と言ったと伝えられる。故にイスラム教徒は死者を生前同様に尊び、そのままの姿で洗い清め、布に包んで土葬すべきだと考える。死者の爪や髪を切ることすら禁じられるのはそれ故だ。
彼らは火葬すると復活すべき肉体が失われると恐れる。アラビア語では火をナールと言い、それは地獄の別称でもある。コーランでも地獄は火の燃え盛る場所として描かれる。彼らが火葬に対して強い拒否反応を示すのは、火葬が地獄の業火を想起させ、死者を汚す行為と信じられているからでもある。
2020年4月、スリランカ政府はコロナ感染による死者には火葬を義務付けると決定した。政府は土葬によって地下水が汚染され感染拡大が進む可能性を理由として挙げたが、この決定には仏教徒であるラジャパクサ大統領を支持する有力僧侶が関与した、とも言われる。
WHO(世界保健機関)はコロナ感染者の遺体について、土葬でも火葬でも構わないとしている。スリランカでイスラム教徒は土葬を求める複数の嘆願書を提出したものの、裁判所が全て却下した。
国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルは火葬義務化が不正であり、政府はパンデミック(感染症の世界的大流行)を利用しイスラム教徒を疎外しようとしていると批判した。アルジャジーラは2019年4月のスリランカ同時多発テロ事件以来、同国でイスラム教徒への敵意が高まっていると指摘。火葬義務化も反イスラムヒステリーの一環だと示唆する。
しかしこの決定は必ずしもイスラム教徒だけに埋葬法の変更を強いるものではない。キリスト教徒も土葬を求める嘆願書を出したが却下された。スリランカ政府はイスラム教徒の遺族に遺体を引き取るよう要請したものの遺族はこれを拒否し、政府は既に5人を火葬したと伝えられる。
世界の反イスラエルデモは倒錯している 2023.11.30
世界がさすがに看過できなかった、アッバス議長の反ユダヤ主義発言 2023.10.13
アラブのアメリカ人気は衰えず...世論調査が示した中国の限界 2023.07.12
自由民主主義に背を向ける中東 2023.06.16
スーダン退避は「黒い関係」の果実 2023.05.16