ウクライナで苦戦するロシア軍、その失敗の本質
レニングラードは第2次大戦中にドイツ軍の包囲を耐え抜いた(1941年) BERLINER VERLAGーARCHIVEーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<ヒトラーを蹴散らした歴史を誇るロシア軍がなぜ? 失敗の原因は軍事ドクトリンと経験にある>
ウクライナではロシア軍が苦戦を続け、逆にウクライナ軍が見事な応戦を見せている。軍事専門家の目にも驚きの展開だ。
この流れは、侵攻開始当初から見られた。2月24日、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の空港を急襲したが、明らかな戦術ミスによって失敗に終わった。ウクライナ軍は少なくとも輸送機1機を撃墜し、ロシアが誇る空挺部隊を退けた。
以来、ロシア軍は苦しんでいる。民間人の居住区域を空爆し、いくつかの都市を破壊したが制圧できた所は一つもない。侵攻開始から2カ月半が過ぎた今も、ロシア軍は大量の装甲車両と兵力を維持しているが、ウクライナ軍はロシア軍部隊の4分の1以上を「戦闘不能」の状態に追い込んでいる。
強力で非情に見えるのに、実は無能なロシア軍──。この特徴は今後も変わることがないだろう。
ウクライナでのロシア軍の戦いぶりは、その歴史と軍事ドクトリンを反映したものだ。第2次大戦時のスターリンの赤軍以来、ロシア軍は同じことを続けている。民間人を標的にし、相手国の戦闘員と民間人の人権を侵害する。大砲やロケット弾、装甲車、兵器と兵力を大量に投入する一方で、兵站(へいたん)を軽んじる。
民間人を標的にするのは戦争犯罪だ。ところがロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしている。「自国の死傷者を減らすためなら、(相手国での)大規模な破壊や民間人の巻き添え死は許容される」と、ロシアの著名な軍事戦略家アレクセイ・アルバトフは2000年に書いた。そうした行為が国際社会から非難されても、ロシア政府は「無視」すべきだと、彼は付け加えている。
残虐さは軍事ドクトリンから
軍事ドクトリンと実際の戦闘の内容は、軍の能力と経験に基づく部分が大きい。ロシア軍は1994年のチェチェン紛争で自軍に多くの死傷者を出し、膠着状態に陥って撤退した。だがウラジーミル・プーチンを大統領の座に押し上げた99年の第2次チェチェン紛争では、ロシアは訓練不足の歩兵に攻撃させる代わりに大砲を大量に配備してチェチェンの首都グロズヌイを破壊し、多数の民間人を殺害。2015年にも、ロシアはシリア内戦への軍事介入で同じ戦術を使い、成功を収めた。
ロシアの戦争のやり方は、ウクライナでも変わっていない。地面にロシア語で「子供たち」と書かれていた南東部マリウポリの劇場への空爆は残虐なものだったが、これも意図的であり、民間人を攻撃するロシア軍のドクトリンを示す例だ。
前線の兵士の独断と意図的な方針が合わさることにより、ロシア軍が組織的な人権侵害を行った記録もある。スターリンが、ドイツ軍に対抗して進軍する自国軍に略奪とレイプを許可していたというのがそれだ。ソ連兵がドイツ人女性を集団レイプしているという報告を受けると、「兵士のやりたいようにやらせろ」と指示した。
この流れは今も続いている。欧州人権裁判所は21年、ロシア軍が08年にジョージア(グルジア)に侵攻した際に民間人を「非人道的」に扱い、捕虜を拷問したと結論付けた。
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