ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運
コロナの脅威を軽視し続けるルカシェンコだが…… SERGEI GAPON-POOL-REUTERS
<19世紀の飢饉はヨーロッパ全土に革命の機運を広げたが、いま新型コロナ禍のなかでベラルーシの民衆はルカシェンコ退陣を求めて立ち上がった>
8月9日、自由で公正には程遠い選挙により、6度目の大統領当選を決めたベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領。彼は、革命を生む要因について深く考えたことがないのだろう。
この独裁者の目には、政治は実に単純に見えているようだ。自らの権威にわずかでも抵抗する者は片っ端からたたきつぶす。それを徹底すれば万事うまくいくと思っているらしい。これは、20世紀の共産主義指導者たちをはじめ、独裁者の常套手段だ。
だが、ルカシェンコにとっての古き良き時代はもう終わったのかもしれない。
前世紀末に東欧の共産主義国家の指導者たちが思い知らされたように、革命を突き動かす力を国家が完全に抑え込むことはできない。いま世界は激しいストレスと変化の中にある。世界中の国々で多くの人々がさまざまな問題に抗議するために街頭でデモを行い、政府は激しい重圧にさらされている。ベラルーシでルカシェンコ退陣を求めて過去30年間で最大規模のデモが行われたのも、こうした世界的な潮流の一環と見なせるだろう。盤石だったルカシェンコの世界に亀裂が走り始めたと言えそうだ。
ジャガイモ飢饉とコロナ危機
1848年、ヨーロッパが革命の波にのみ込まれたことがあった。ヨーロッパの多くの国で怒れる民衆が立ち上がり、より国民の声を反映し、より抑圧の少ない政治を要求したのだ。
都市化、工業化、教育、ナショナリズムといった要因がこの動きに拍車を掛けたことは、よく知られているとおりだ。しかし、同時代の人々は、民衆を蜂起へと突き動かした最大の要因に気付いていなかった。その前の数年間、ヨーロッパは大量の雨に見舞われていた。アイルランドでは、それが原因で「ジャガイモ飢饉」が起きて、人口の12%が餓死し、13%が国外への移住を余儀なくされた。他の国々でも、天候不良により農作物の不作と飢饉が深刻化した。
これは、ヨーロッパ全土に革命が広がる引き金になった。最終的に、フランスを別にすれば民衆の蜂起は鎮圧された。それでも、雨が既存の体制への反発を増幅させ、その後の歴史の流れに大きな影響を与えたことは間違いない。
新型コロナウイルスは、この現象の今日版になるかもしれない。ルカシェンコは、アメリカのトランプ大統領やブラジルのボルソナロ大統領などと同様、この感染症の脅威を軽んじている。ルカシェンコが推奨するコロナ対策は、「ウオツカを飲む」「サウナに行く」「トラクターを運転する」といったものだ。ベラルーシでは、新型コロナウイルスの感染率がヨーロッパで有数の高さに達しているのだが。
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