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遠藤誉から、大陸へのメッセージ
――毛沢東に対する疑問にちゃんと向き合ったのは、この本を書いたときが初めてだったのか。それまでは、自分の中の疑問にあまり触れないようにしてきたのか
『チャーズ』を書いたときには、思い切り疑問をぶつけた。「おかしいじゃないか」という気持ちをぶつけた。だが「毛沢東が日本軍と共謀することさえした」と知るにおよんで、おかしいじゃないか、とも思わなくなった。この人ならこのくらいのことはやるだろうな、と。それでもう、私の人生返せ、というような気持ちがなくなった。二段階を経て今ようやく、自分の人生を克服したような気分だ。
人生は分からないものだ。向き合うのが嫌だという気持ちや、こんな整合性が取れないことについて、書けないだろうという気持ちもあった。自分が小さいころに目の前で弟が餓死する、兄が餓死するというのを見てきて、餓死体がたくさんある上で野宿して記憶喪失になって、という経験をしたので、心の中に心的な障害があった。毛沢東に対する「なぜだ」というこだわりがずっとありながら、中国国歌がテレビから流れると家の中でもすっと立ち上がって直立不動で聞いたりしていた。しばらく前まではそうだったのだが、そういうことからも今はすべて解放されたし、精神的な束縛から全部解放された。中国の真相を知ろうとしてはいけないのではないかという罪悪感を持たないようになって、ようやくすべてから解放された。
――真実と向き合ってはいけないのではないか、という罪悪感とは、向き合ってそこを否定してしまうと自分が生きてきた道を否定することになるからか。周りに対する罪悪感ではなく、自分が信じてきたものを裏切ってはいけないという、自分に対する罪悪感か
確かに、裏切ってはいけないという自分に対する罪悪感だ。ああいう風に洗脳されて育った人間というのは、全員がその葛藤を持っていると思う。良心的に誠実に生きてきた人は、それを乗り越えるのに大変な努力が必要になる。
――では今、毛沢東を一言で表現すると
凄まじい戦術家。そういう風にしか思わない。大悪人とか、そういうような主観はゼロだ。いいとか悪いとかそういうことではなく、凄まじい戦略家だったのだと。この大地を統治するにはこれくらいのものがないと出来ないのだ、と。それにしてもここまで殺した人はいないが、そこまでしてでも帝王でいたかったのだろう。彼にあるのは帝王学だけだった。
私自身、こういうプロセスを経ないと、自分の人生の束縛から抜け出すことが出来なかったのだと思う。毛沢東を徹底的に分析して、書くことによってはじめて、ようやくすべての謎が解けた。すべてに整合性が見えた。矛盾が解けた。そういう状況になったので、納得して、解脱した。物理学的な思考回路をもった自分と、小さいころからの経験をもった人間的な自分と、そのトータルにおいて、ここにピリオドを打つことができたという気持ちだ。
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