コラム

世界初、イギリスで「イヌ用培養肉」販売開始 開発経緯と、事前アンケートの「意外な結果」とは?

2025年02月28日(金)22時35分

今回のミートリーの犬用培養肉の販売実現は、24年7月にイギリス食品基準庁(FSA)、環境・食糧・農村地域省、動物・植物衛生庁の審査を経て、製造の認可を受けたことから始まりました。

同社は開発した「チックバイツ」について、「1個の鶏卵から1つの細胞を採取して培養した。採取した1個の細胞からペットに一生食べさせるのに十分な培養肉を生産することは可能だ。植物由来の原料と組み合わせることで、ペットの健康に必要な必須アミノ酸、重要な脂肪酸、ミネラル、ビタミンをすべて含んでいる。従来の鶏の胸肉と同じくらいおいしくて栄養価が高い」と語っています。

商品は植物性ペットフードのブランド「THE PACK」と提携しており、価格は1パック(50グラム)あたり3.49ポンド(約660円)で、犬用おやつとしては中程度の価格帯とのことです。

日本でも進む培養肉研究

なお、同社は以前、イギリスの別の植物性ペットフードメーカー「Omni」と提携して、培養肉キャットフードの開発を進めていました。昨年の認可取得のため、ドッグフードへと方向転換しましたが、培養肉キャットフードにも引き続き意欲があり、猫への給餌試験も計画中とのことです。

日本でも、「食べられるアヒル肝臓由来細胞」の作成に成功したインテグリカルチャー株式会社や、22年3月に日本初の「食べられる培養肉」の開発に成功し「培養ステーキ肉」の開発に取り組んでいる日清食品グループなど、数多くの企業が培養肉の研究に勤しんでいます。

最も気になる安全性についてはWHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)は23年4月にリポートを発表するなど、現在進行形で議論が進められています。

日本で人間用やペット用の培養肉の流通が認可された時、あなたはどのような選択をするでしょうか。今から考えておいても早すぎるとは言えないでしょう。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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