コラム

世界初、イギリスで「イヌ用培養肉」販売開始 開発経緯と、事前アンケートの「意外な結果」とは?

2025年02月28日(金)22時35分

そもそも、「培養肉」の開発は、①動物を殺さずに生産できるため動物福祉の観点から好ましい、②従来の畜産と比べて生産における環境負荷が大幅に軽減できる、という2点が大きな要因となっています。

欧州環境機関(EEA)は、培養肉は従来の牛肉生産と比べると45%少ないエネルギー消費量で製造できると試算しています。さらに、もし製造に再生可能エネルギーが利用されれば、温室効果ガスの排出量は最大92%の削減、土地の使用量は95%、水の使用量は78%も減らすことができると言います。

特に牛肉生産は、二酸化炭素とともに主要な温室効果ガスであるメタンの最大の排出源であり、広大な放牧地と豊富な水も必要とするため、大きな環境負荷がかかります。培養肉は工場での生産なので二酸化炭素を排出しますが、環境への影響は大きく減らせると期待されています。

ペットの食と環境への影響

「ペットを飼っている割合が高い国で消費される肉の約20%は、人間ではなくペットが消費している」とイギリス・ウィンチェスター大学のアンドリュー・ナイト教授はBBCに語っています。畜産の環境への影響は、人間だけでなくペットの食も考慮すべき時代になったと言えるでしょう。

さらに、著名なオープンアクセス科学誌「PLOS ONE」に22年に掲載された論文によると、イギリスの研究者による729人を対象にした調査では、「培養肉を自分で食べてもいい」と答えた者は32.5%だったのに対し、「ペットに与えてもよい」と答えた者はそれを大きく上回る47.3%でした。

ペットに与えてもよいとした人々の内訳は、「自分は培養肉を食べてもよいからペットにも食べさせてもよい」と考える者(237人中193人、81.4%)、「自分はヴィーガンやベジタリアン(卵や乳製品を食べることもある菜食主義者)なので食べないが、ペットには培養肉を与えてもよい」と考える者(154人中86人、55.9%)などいくつかのパターンに分かれました。ただし、肉食の回答者のうち、「自分は培養肉を食べたくないがペットには与える」と答えた者は、ごく少数(114人中11人、9.6%)でした。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米ISM製造業景気指数、3月は50割り込む 関税受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story