コラム

「逆立ちで月面着陸」の原因が判明! 総括会見で明かされたSLIMプロジェクトの最終評価と今後の展望

2024年12月27日(金)21時50分
小型月着陸実証機「SLIM」

   LEV-2がフロントカメラで撮影した月面で「逆立ち」状態のSLIM ⓒJAXA/タカラトミー/ソニーグループ㈱/同志社大学

<「逆立ち」で着陸できた理由、予定されていなかった越夜の成功...ほか、小型月着陸実証機「SLIM」プロジェクトを総括する会見で語られたこととは──>

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は26日、1月に世界初のピンポイント着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM」のプロジェクトを総括する会見を行い、活動成果や着陸直前に起きたメインエンジンのトラブルについての調査結果を報告しました。

会見のポイントとなった5つのトピックスから、今年宇宙ファンが最高に盛り上がったイベントと言っても過言ではないSLIMプロジェクトの成功を改めて振り返りましょう。

◇ ◇ ◇

1.SLIMの概要と「設計のここがすごい」

SLIMは2023年9月7日にH-II Aロケット47号機で打ち上げられました。同年12月25日に月周回軌道への投入に成功、24年1月20日午前0時過ぎに「神酒(みき)の海」近くのクレーターに着陸しました。月面着陸(ソフトランディング)成功は、旧ソビエト(1966年)、アメリカ(同年)、中国(2013年)、インド(23年)に続く5カ国目です。

もっともSLIMは、単に月面着陸に成功したのではありません。正式名の「Smart Lander for Investigating Moon」が示すように、①狙った場所へのピンポイント着陸と、②着陸に必要な装置の軽量化が開発目標で、いずれも達成しました。

従来の月着陸の精度は数キロから10数キロでしたが、SLIMは世界初の100メートルオーダーを目指し、「『降りやすいところに降りる』から『降りたいところに降りる』着陸へ」がスローガンでした。実際には「10メートル程度ないしそれより良好」と評価される着陸精度を実現しました。

さらに、これまでの月着陸機は基本的に「海」と呼ばれる平坦な広い領域に着陸していましたが、SLIMは着陸が困難な小さな窪地(クレーター)に降りており、月面での自由自在な着陸・探査に向けて「新しい扉」を開きました。SLIMの坂井真一郎プロジェクトマネージャによると、現在は「SLIMに続け」とばかり、NASAがピンポイント着陸を目指した機体を開発しているそうです。

また、SLIMは将来の高頻度の月探査を見越してコスト削減のため小型・軽量化しています。高さは約2.4メートル、重さは燃料を除き約200キロと非常にコンパクトです。直近に月面着陸に成功した機体と比べると、インドのChandrayaan-3(23年8月)は約1750キロ、民間企業で初成功したNova-C(24年2月)は約1900キロでした。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

セブン&アイ、クシュタールと秘密保持契約を締結 資

ワールド

米・ウクライナ、鉱物資源協定に署名 復興投資基金設

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story