コラム

「逆立ちで月面着陸」の原因が判明! 総括会見で明かされたSLIMプロジェクトの最終評価と今後の展望

2024年12月27日(金)21時50分

4.辛口評価で知られる國中宇宙研所長の最終評価は?

会見にはJAXA宇宙科学研究所(宇宙研)の國中均所長も同席しました。坂井マネージャは宇宙研教授でもあるので、國中所長は所属組織の長です。

國中所長は、成功したミッションに対しても辛口の評価をすることで有名です。報道陣が「今回の成果は何点ですか?」と尋ねるのも恒例になっています。

SLIM着陸直後の記者会見では「(着陸姿勢が乱れたため起動しない)太陽電池のことが気になって仕方がない」と言いながら硬い表情で「100点満点でギリギリ合格の60点」とコメント。着陸6日目は「60点に、LEV-1(超小型月面探査ローバ)の放出成功、LEV-2(変形型月面ロケット)の放出成功、マルチバンドカメラが正常に動作したことに対して各1点ずつ加点して63点」と採点しました。

今回の会見では、3回の越夜成功で貴重なデータが取得できたことなどを評価し、「69点にしたい」と笑顔で語りました。特に、越夜後のSLIM内の温度を測定したデータは、今後の月面探査車や月面用装置の開発に活用できる非常に有益な情報で、「将来に向けた宝物だ」と力を込めました。

5.坂井マネージャ、國中所長の感想と今後の展望

坂井マネージャ、國中所長とも、SLIMミッションでもっとも印象的だったこととして「LEV-2が撮影した月面にいるSLIMの写真」を挙げています。

「LEV-1」「LEV-2」は、着陸直前の高度5メートル付近でSLIMから切り離されました。LEV-2は直径約80ミリ、質量約250グラムの野球ボール程度の大きさのロボットです。変形可能で、車輪を出してSLIMの周りを走行し、前後に1台ずつ付いているカメラで撮影します。画像処理によりSLIMが写っている画像を適切に選び、LEV-1を通して地球に送信しました。

「(逆立ちの)姿勢は予想通りだったが、数値データではなく本当に宇宙空間にいるSLIMの姿を画像で見ることができて衝撃を受けた」(坂井マネージャ)

「報道陣はもっとLEV-2のことを書いて宣伝してほしい。SLIMの開発当初、小型ロボットを乗せる余裕はなかったが、私が『最終的に、絶対に搭載できる余裕が生まれるはずだから』と説得して、ロボット開発を先導して進めてもらった」(國中所長)

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATOのウクライナ巡る行動に「核紛争リスク」、ロ

ビジネス

トランプ氏、4月2日の相互関税発動に変更なし

ビジネス

米2月の卸売物価は前月比横ばい、関税措置が今後影響

ワールド

トランプ氏「ロシアの正しい対応に期待」、ウクライナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 10
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story