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宇宙誕生の138億年前から1秒もずれない「原子核時計」実現に一歩前進、日本人が活躍する「次世代型時計」開発の意義
しかし、科学技術の発展で計測技術の精度が上がっていくと、地球の1日の長さ、つまり自転周期は、潮汐力の影響や季節変動によって一定ではないことが分かってきました。
世界共通の単位系を維持するための国際会議である「国際度量衡総会」は、1956年に1秒の基準を地球の自転周期(1日)から公転周期(1年)に変えました。「1秒は暦表時1900年1月0日12時の回帰年の31556925.9747分の1」と定義されましたが、この定義は一般の人に分かりにくいだけでなく、キリが良いという理由のみで基準点として選ばれた1900年に遡って再現実験をすることもできず、課題が残りました。
その後、国際度量衡総会は67年に、秒の定義をこれまでの地球の1日や1年を使った天文学的なアプローチから、原子の性質を使った量子力学的なアプローチに抜本的に改定しました。55年にイギリスの国立物理学研究所が実用化した「セシウム原子時計」を用いて、「1秒は、セシウム133原子の基底状態にある2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍に等しい時間」としたのです。この定義の「秒」は「国際原子秒」と呼ばれています。後に「絶対零度のもとで止まった状態であるセシウム原子」という条件も加えられましたが事実上不可能なので、補正して利用されています。
原子時計より外界の影響を受けにくい原子核時計
セシウムは天然にはセシウム133のみが存在するため、すべてのセシウム133原子の挙動には個体差がないものとして扱えます。国際原子秒の定義は、平たく言えば「セシウム133原子が、一番低いエネルギー状態から2段階変化するときに放射する電磁波の振動が約92億回繰り返されたときの時間の長さ」です。
最少で1億年に1秒程度の誤差とされるセシウム原子時計は、原子の外側にある電子のエネルギー状態を変えるため、環境の電磁場の影響を受ける可能性が少なくありません。対して原子核時計は、原子核内のエネルギー状態を変えるため、原子時計よりも外界の影響を受けにくく、より誤差が少なく正確な時間を刻むことができます。
事実、トリウム229による原子核時計が実現すれば、誤差は317億年で1秒程度になると考えられています。ちなみに、原子核のエネルギー状態を変えるには、通常は大きなエネルギーが必要ですが、トリウム229は唯一、他の元素の1000分の1から100万分の1のエネルギーで原子核を励起できることが以前より知られていました。
トリウム229に照射すべきレーザー光のエネルギー(トリウム229のアイソマー状態のエネルギー)は測定が難しく、長らく確定されませんでしたが、2019年にアメリカチーム、ドイツチーム、今回の研究を主導した理研の山口専任研究員らの日本チームという異なる3チームが約8.3電子ボルト(波長149ナノメートルのレーザーに相当)とほぼ同じ値の測定に成功しました。
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