コラム

月面着陸成功「SLIM」が復活! 月の謎を解明する「エクストラサクセス」達成に期待膨らむ

2024年01月30日(火)14時45分
小型月着陸実証機SLIMによるMBC観測のイラスト

小型月着陸実証機SLIMによるMBC観測のイラスト 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

<月の「夕方」に、西側を向いていた太陽電池に光が当たったことで、地上との通信を再開したSLIM。マルチバンド分光カメラ(MBC)による科学観測にも成功し、月面から新たな画像が>

日本初の月面着陸に成功した小型月着陸実証機SLIMは、28日23時頃に地上との通信が再度行えるようになり、運用が再開されました。月の夕方になり、西を向いているSLIMの太陽電池パネルに太陽光が当たって発電を始めたためとみられます。

状況を伝えるJAXAのX(小型月着陸実証機SLIM @SLIM_JAXA)によると、同機は早速、搭載されたマルチバンド分光カメラ(MBC)を作動し、10バンドの科学観測に成功しました。ポストされた記事には、「トイプードル」と名付けられたカンラン岩候補の高解像度写真も添えられていました。今後、月の起源を探る調査が進められます。

「復活」のタイムリミットは1月中だった

SLIMは20日0時20分頃に世界5カ国目、日本初となる月面着陸に成功、目標地点から東に約55メートル(※エンジントラブルの影響がなければ約10メートル以内の精度と推定される)のピンポイント着陸も達成しました。

ただし、着陸直前の高度50メートル付近で2基あるメインエンジンのうち1基の一部が脱落したため、機体はバランスを崩して横方向に移動するとともに、予定の姿勢から90度傾いて着陸しました。

着陸時は「月の朝」にあたり、太陽は東にありました。本来は太陽電池パネルを上側にして着陸し直後から発電できるはずでしたが、パネルを西側に向けて着陸したために太陽光が当たらず発電できずにいました。

また、着陸時に使用していたバッテリーは、節電をしながらSLIM本体に蓄積された着陸降下中のデータを地球に送信したり、MBCを低解像度で運用して月の謎を解くカギとなるカンラン岩候補を探したりした後、着陸当日の2時57分にコマンドにより電源系統から切り離されました。つまり、この時点でSLIMの電源は失われ、休眠状態になりました。

SLIMの「復活」は、月の夕方になって太陽が西に来て、西向きの太陽電池パネルに太陽光が当たり発電を開始する可能性にかかっていました。

現実的なタイムリミットは1月中でした。というのは、①着陸直後から続く昼のため、電気系統は100℃以上の高温に耐える必要があり、耐久性は日に日に失われる、②2月1日には月の日没を迎えて夜になる、③月は高温の昼だけでなく、夜もマイナス170℃以下となる苛酷な温度環境のため、機体の電気系統が「越夜」することは想定されていない、からです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story