コラム

気象予報AIはスパコンの天気予報より優秀? Google関連会社の10日間予報が精度とスピードで圧倒

2023年11月24日(金)15時55分
大型ハリケーン「Lee」

GraphCastは、大型ハリケーン「Lee(リー)」のカナダ・ノバスコシア州上陸を従来の数値天気予報より早く予測した(画像は9月16日、カナダ東岸に迫るLee) NOAA/Handout REUTERS

<Alphabet傘下の人工知能会社「DeepMind」は、開発した気象予報AIモデル「GraphCast」を欧州中期気象予報センター(ECMWF)が運用する世界最高クラスの予報モデルと比較。その結果、10日間予報でより高速かつ高精度に天気を予測できたと発表した。AIモデルの可能性を、現在の主流である数値天気予報の歴史とともに概観する>

近年は、世界各地で猛暑や豪雨、干ばつなどの異常気象がニュースになっています。「50年に1度の大雨」「観測史上最高気温」などのフレーズは、もはや珍しいことではなくなりました。

自然災害から地域社会を守るためには、正確で迅速な天気予報が鍵となります。

現在は様々な予報期間、予報区域の天気予報が、各国の政府機関や民間の気象会社によって発表されています。日本では一般に、現在から明後日までは「短期天気予報」、48時間から7日以内は「中期天気予報」、1カ月、3カ月、暖候期、寒候期などの期間予報は「季節(長期)天気予報」と呼ばれています。なかでも中期天気予報は、台風の進路や大雨の程度を予想することで河川氾濫や土砂崩れに備えるなど、地域の被害を軽減するために実践的に使われます。

Googleの親会社であるAlphabet傘下の人工知能会社「DeepMind」は、開発した気象予報AIモデル「GraphCast」が10日間予報で欧州中期気象予報センター(ECMWF)の予報モデルよりも高速かつ高精度に天気を予測できたと発表しました。研究成果は、14日付の米科学学術誌「Science」に掲載されました。

20世紀以降の天気予報の精度の高まりは、コンピューターの発展の歴史でもあります。果たして気象予報AIは、現在の主流であるスーパーコンピューター(スパコン)を利用した数値天気予報に取って代わる可能性があるのでしょうか。数値天気予報の歴史とともに概観しましょう。

コンピューターの性能向上とともに発展

行政機関や企業が業務として行う天気予報は、①気象観測、②数値計算、③予報という三つのステップで成り立っています。

気象庁の天気予報を例に取ると、①静止気象衛星や気象レーダー、全国約1300カ所に配備した地域気象観測システム(アメダス)などによって、大気の状態や雲の分布、降水量、気温、日照時間などを実際に測定し、②実測データを用いて、コンピューターで今後の大気や海洋、陸地の状態の変化を数値シミュレーションします。そして、③予報官がシミュレーションの結果を解析して天気の変化を予想し、天気予報や大雨警報などの各種気象警報を発表します。

日本ではかつては、一般の人が新聞やテレビなどで見ることができる天気予報はすべて気象庁が発表したものでしたが、1993年に気象業務法が大幅に改正され「天気予報の自由化」が起こりました。気象庁以外の民間気象会社が独自の天気予報を発表できるようになったため、予報の技術水準と信頼性を担保するために「気象予報士」の国家資格も創設されました。現在、民間会社は、ピンポイント地点の天気予報や、紫外線や花粉の量の予報など、工夫をこらした独自予報を実施しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story