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他の動物のミルクを飲むヒトの特殊性と、大人が牛乳でお腹を壊す理由

乳糖耐性を持つか持たないかが生死を分けた時代もあった?(写真はイメージです) AndrewJohnson-iStock
<ヒトがヒト以外の哺乳動物のミルクを飲むことは、進化において想定されていなかった事態のはず。他の哺乳動物に見られない独特の食文化は、生死を左右するやむを得ない状況を経て広まったものかもしれない>
牛乳は健康に良いから飲みたいと思うものの、お腹の調子が悪くなるから飲めないという大人は少なくありません。これは、牛乳に含まれるラクトース(乳糖)を適切に分解(消化)できない結果、消化器に不具合が生じることが原因で、「乳糖不耐症」と呼ばれます。ヒトを含むほとんどの哺乳動物は、離乳するとラクターゼ(乳糖分解酵素)の活性が低下します。
不便に感じるかもしれませんが、そもそもミルクは、生まれたばかりの哺乳動物が他の食物を摂取できるようになるまでの間、栄養を摂るための食物です。大人になっても他の動物のミルクを飲んだり利用したりしているヒトは、風変わりな動物なのです。
現在、世界中の人々の3分の2は乳糖不耐症であると言われています。逆に言えば、哺乳動物としては本来予定されていなかった「大人になってもミルクを飲む習慣」に対して、3分の1は適応済みなのです。
ヒトは大人になっても乳糖を分解できる能力を、どのように獲得していったのでしょうか。新たな仮説が7月末、科学専門誌の『Nature』に掲載されました。
最古の利用は約1万年前、人類とミルクの歴史
ヒトのラクターゼの産生は、2番目の染色体にあるMCM6という遺伝子によって制御されています。乳児の頃はMCM6が働いてラクターゼが産生されて乳糖を分解できますが、大人になるにつれてMCM6が働かなくなります。けれど、MCM6に変異が起きると、大人になってもラクターゼを産生し続けることが知られています。これをラクターゼ活性持続症と言います。つまり、大人になっても乳糖耐性を持ち、ミルクを消化できるようになります。
人類による最古のミルクの利用は、約1万年前に中近東でヤギ、ヒツジ、ウシのミルクを利用することから始まったと考えられています。その後、中近東からヨーロッパに酪農が伝わりました。けれど、この時代の中近東やヨーロッパの人々の骨に残されたDNAから遺伝子の情報を調べてみても、乳糖耐性がある人は全く見つかりません。
これまでの研究では、人類が初めて乳糖耐性を獲得するのは人類が動物のミルクを利用するようになってから約4千年後で、その後、酪農の広がりとともに徐々に人類に広がり、現在は全世界の3分の1の人が獲得したと考えられていました。
英国のブリストル大を中心とする研究グループは、酪農の発展とラクターゼ活性持続性の広がりを調べるために、554か所の考古学的遺跡から採取した陶器の破片に付着した動物性脂肪の痕跡6899点を分析しました。その結果、ヨーロッパでは新石器時代(紀元前7000年頃~)以降に動物のミルクの利用が広まったこと、地域や時代によって差があったことが示されました。
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