コラム

未来の女性首相はどのタイプ? 哺乳動物の「メス首長」に見るリーダーの資質

2021年10月12日(火)11時30分

B群のメスザルで9歳の"ヤケイ"は、今年初めは母親に次ぐメス2位の地位でした。しかしオス2位からプロポーズを受けて自信を持つと、母親との喧嘩に勝ってメス1位を奪取。上位のオスが見せるような威嚇行動も始めました。

4位以下のオスが恐れて逃げるようになると、オス3位が果敢にヤケイに抵抗しますが、返り討ちにあいます。その姿を見て、プロポーズをしていたオス2位もヤケイから逃げるようになりました。

この時、群れのリーダーのオス1位"ナンチュウ"は、7年間の長期政権を築いていました。けれど、ヤケイの身内の子ザルの喧嘩の仲裁を行ったナンチュウは、逆にヤケイにねじ伏せられます。通常は、体の小さいメスは喧嘩でオスには勝てないのですが、人間に換算すると30歳のヤケイと100歳近いナンチュウでは、若いヤケイに分がありました。

その後、ボス専用の切り株の上にある餌は、ヤケイが満足した後でないとナンチュウは近づけなくなったそうです。

「おばあちゃんの知恵」で群れを率いるゾウ

ヤケイの下剋上は見事ですが、人間に当てはめると、上位の男性にモテたことで態度が大きくなり粗暴になる女性政治家では、国民からの支持は集めにくいかもしれません。国を脅威から守り正しい方向に導くには、知性が必要です。

リーダー選びで知性を重視する動物はゾウです。

ゾウはアフリカとアジアに生息し、いずれも寿命は60〜70歳と人間並みに長寿です。しかも、記憶力が良く、行ったことのある土地の地形や水場の位置は生涯忘れないと考えられています。

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johan63-iStock

ゾウのオスは、繁殖年齢になると近親との交配を避けて群れから離れます。なので、同じ群れの中で最も経験を積んで「生きのびる知恵」を持つ最長老のメスが群れのリーダーとなります。リーダーは過去の記憶から、餌が豊富にある場所や水場に群れを率います。また、アフリカゾウの天敵であるライオンや、アジアゾウの天敵であるトラの臭いや鳴き声を速やかに察知して、群れ全体を安全な方向に誘導します。

セレブパワーでオスを支配するブチハイエナ

ゾウの知性派女性リーダーは素晴らしいですが、高齢になるまで女性が活躍できないというのは今の人間界にはふさわしくありません。血統が良く、男性よりも強い「スーパーレディ」がリーダーになる動物が、ブチハイエナです。

ブチハイエナは、アフリカ大陸に生息している体長130cm程度の動物です。多ければ100匹以上の集団で生活をします。ハイエナというと屍肉を漁ったり、他の動物の獲物を横取りしたりする印象を持ちますが、ブチハイエナは食べ物の大半を自分で狩りをして獲得します。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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