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AI鑑定はアート界の救世主か? ルーベンス作品の真贋論争から考える
1980年にナショナル・ギャラリーが約10億円で購入した「サムソンとデリラ」 PUBLIC DOMAIN
<ルーベンス作とされてきた英ナショナル・ギャラリーの「サムソンとデリラ」をAIで分析したところ、「91.78%の確率で本物ではない」という結果に>
先月末、英国の国立美術館にあたる「ナショナル・ギャラリー」が所有する10億円の絵画が、AIによって偽物と判定されました。はたして、AIはアートの真贋の謎を解決する切り札となるのでしょうか。
問題の絵画は、17世紀のバロック時代の代表的な画家ピーテル・パウル・ルーベンス作とされる「サムソンとデリラ」です。
ルーベンスは「王の画家にして、画家の王」とも呼ばれ、世界で最も成功した画家と言われています。宮廷画家としてイタリアのマントヴァ、スペイン、ネーデルランドなどで活躍し、ヨーロッパ各地の他の宮廷や教会からも絵画の注文が殺到しました。生前に莫大な富を得て、死後も美術史に残る作品を描いた画家として評価され続けています。
いっぽう、「サムソンとデリラ」は、旧約聖書の士師記に登場する物語の一場面を描いた作品です。古代イスラエルの士師(指導者)サムソンは、怪力の持ち主でした。サムソンがデリラという女性を愛したため、敵のペリシテ人はデリラを利用して、その力の秘密を探ろうとします。サムソンは口を閉ざしていましたが、ついに「髪を切らないことが怪力の秘密だ」とデリラに打ち明けてしまいます。サムソンは敵に髪を切られ、両目をえぐられて奴隷にされます。しかし最期は神に祈って怪力が復活し、多くのペリシテ人を道連れにして死んでいきます。
ルーベンスの「サムソンとデリラ」は、サムソンの髪が切られる直前を描いています。デリラの膝枕で安心しきって眠っているサムソンのもとに、老女と男が現れます。老女がサムソンの頭上にロウソクを灯すと、男は今まさにサムソンの髪を切ろうとします。絵画の右側に見える半開きになった扉からは、髪が切られたサムソンを捕縛しようとする兵士たちの姿が見えます。
一部専門家の間では40年前から疑いが
この作品は、ルーベンスが1609年に、後援者であるアントワープ市長ニコラス・ロコックスのために制作したものとされています。1980年にナショナル・ギャラリーがオークションで250万ポンド(現在の価値で約660万ポンド、約10億円に相当)で購入しましたが、当時から一部の専門家の間で偽物である可能性が指摘されていました。
たとえば、ルーベンスの「サムソンとデリラ」をもとにヤーコプ・マータムが彫刻した銅版画作品では、横たわるサムソンの右足はつま先まで描かれています。また、同世代の画家フランス・フランケン二世の絵画「ブルゴマスターロックスの家での宴会」では、マントルピースの上にルーベンスの「サムソンとデリラ」が飾られています。こちらの作品でもサムソンの右足はつま先まで描かれています。けれど、ナショナル・ギャラリーの所蔵品では途切れていて、足の先が見えません。さらに、この絵の色使いの特徴が、「ルーベンスのものではない」と主張する専門家もいます。
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