コラム

テクノロジーで瞑想を不要に TransTech Conferenceから

2019年02月12日(火)16時00分

近赤外線で異なるレベルのPNSEを実現

「要はエネルギーなんです」とTransTech LabのSanjay Manchanda博士は言う。電流、電磁波、超音波、近赤外線・・・。すべてはエネルギーであり、周波数だ。単純にエネルギーを照射するだけで、生物は元気になるのだという。有名な実験では1982年に、ごく少量の電流をネズミの皮膚に照射するだけで、エネルギーを蓄えるアデノシン3リン酸(ATP)が500%増加し、たんぱく質合成が70%増加するなどの結果が出ている。

同博士が今最も注目しているのが、近赤外線だ。細胞が近赤外線の照射を受けると、ミトコンドリアに作用し、シトクロムc酸化酵素を増やし、アデノシン3リン酸(ATP)を生成する。ミトコンドリアは有機物からエネルギーを取り出す役割を果たし、シトクロムc酸化酵素は電子伝送を助け、ATPはエネルギーを蓄える。つまり近赤外線の照射を受けることで細胞は、エネルギーがチャージされることになる。

近赤外線を脳に照射すれば、同様の効果が期待できるのだろうか。実は頭蓋骨は少量の光を通過させることができる。脳に近赤外線を照射すれば、酸素を効率よく取り入れ、細胞の修復や能力拡張に効果があることが分かっている。

ネズミで実験したところ、近赤外線の中でも40Hzの近赤外線にだけ効果が見られた。40Hzの光とは、1秒間に40回点滅する光のことだ。「この1秒間に40回という頻度に何らかの意味があるようなんです」と同博士は言う。

そこでベンチャー企業のVieLight社が、NeuroGamma 40Hzというヘッドセットを開発。このヘッドセットを使って、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者や認知能力が低下している患者の脳に40Hzの近赤外線を照射したところ、初期テストでは、患者の認知能力の改善結果が確認されとという。現在アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を得るための、大規模な臨床実験が計画されているという。「近赤外線による矯正治療は、もうすぐ家庭でも利用できるようになりますよ」と語っている。

さてでは近赤外線は、瞑想にはどう関係してくるのだろうか。

40Hzは脳波でいうとガンマ波に当たる。ガンマ波は最近まで測定が困難で重要性が理解されてこなかったが、最近では瞑想状態に入るとガンマ波が強くなることが分かってきている。では40Hzの近赤外線を照射すると、40Hzの脳波、つまりガンマ波も増加するのだろうか。実験の結果では、ガンマ波のみならず、アルファ波、ベータ波も強化されたという。

0207yukawa3.jpg

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英企業信頼感、1月は1年ぶり低水準 事業見通しは改

ビジネス

基調物価の2%上昇に向け、緩和的な金融環境を維持=

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story