コラム

日本学術会議問題を「総合的俯瞰的に」考察して浮かび上がった、菅総理の驕り

2020年12月03日(木)21時26分

いずれにしても、このように「総合的かつ俯瞰的」に、図を見てみると、菅総理がどの領域からも攻められている構図が伺える。

健全な政権批判に人事で反応する安倍政権の悪癖を踏襲するのか

任命されなかった宇野重規教授、芦名定道教授、岡田正則教授、小沢隆一教授は、新安保法制は憲法違反であると反対する立場をとり、松宮孝明教授は共謀罪を批判する意見を国会で述べ、加藤陽子教授などは秘密保護法の危険性について指摘していた。

なぜ憲法学者は「集団的自衛権」違憲説で一致するか? 木村草太・憲法学者

彼らは、「特別な国」として戦前の日本の反省から作り上げた現行憲法上の解釈問題を専門家として論理的に指摘したに過ぎない。

これらの学者を、政権の意向に従わなかったという理由で、任命しないのは多くの人が指摘する通り、人事で国家機関の制御を図る事を好む安倍政権の性格をまさに踏襲するものだ。

民間企業の感覚で例えるのは適切かわからないが、社長が自分がやりたい施策について法務部門に法的リスクを照会したとして、法務部門が経営会議で法的リスクを指摘し反対するようなものだ。法務に聞けば、法務としての回答が来る。ただ、さらに例えていうなら、「その経営会議」で「正論をぶつけ反対した法務担当」が5年後、新社長にいきなり左遷されたり解雇されたりするような、陰湿で気持ち悪い報復人事だ。

憲法学者には、現実の安全保障リスクを負う責任はない、あくまで法学者として専門家の立場で指摘や批判を行うのみだ。それを聞いた上でまさに「総合的」「俯瞰的に」に最終判断を行うのが政治家の役割だと思う。

先に述べたように、アメリカが国際的役割を縮小させることで生じる空白を埋め、不安定化するアジアの安全保障環境に現実的に対応した安倍政権の外交を(方法論の是非は別として)個人的には評価している。

総理の判断の理由が理解できないのは、国の政策に批判的だっただけで、何故、組織の人事に介入することに政治リスクをとってまでこだわったのかということだ。

カウンターデモクラシーへの不寛容

為政者が以前よりもカウンターデモクラシーに寛容で居られなくなった傾向が構造要因として考えられる。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プラスチック条約、最後の政府間議始まる 米の姿勢変

ビジネス

米財務長官指名のベッセント氏、減税と関税が優先事項

ワールド

新たな貿易戦争なら欧米双方に打撃、独連銀総裁が米関

ワールド

スペイン・バルセロナで再び抗議デモ、家賃引き下げと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story