コラム

米国人「代理母」に子供を産ませる中国人が急増...やりたい放題の現状に、アメリカ側の反応は?

2023年05月20日(土)15時55分
中国の代理出産イメージ

nemchinowa/iStock

<一人っ子政策の影響もあって人口の急激な減少傾向が顕著になってきた中国で、代理出産へのニーズが高まっているという>

中国で「一人っ子政策」が始まったのは1979年のこと。それまで人口を増やす政策を続けてきた中国は、人口が増えすぎることを懸念して「計画育成」の制度に転換した。

当時、一人っ子政策に従うとさまざまな優遇が受けられたが、違反すると罰金を科される厳しい規制だった。ところが、人口抑制の効果は確かに実現したが、逆に高齢化や労働人口減が深刻になり、結果的には2015年に一人っ子政策は廃止されることになった。

その影響もあり、中国では2017年以降、出生率が減少を続けている。日本のジェトロによれば、「中国の国家統計局は1月17日、2022年末時点の人口は14億1,175万人で、前年から85万人減少したと発表した。人口減少は1961年以来、61年ぶりとなる」という。「1949年の建国以来で初めて1,000万人を下回り、最低を更新した」

国連の調査では、14億人を超える中国の人口は、2050年までに1億人減少し、2060年までには6億人は減ると見られている。人口減は経済に直接影響を与えるので、先行きを懸念する声が国内外から出ている。

アメリカ人の代理母を求める中国人たち

そんな中国で最近、代理出産を求める人が増えている。ただ中国では代理出産は基本的に禁じられているために、海外で代理出産を行う中国人が増加しているという。アメリカの保守系シンクタンクであるヘリテージ財団の研究者であるエマ・ウォーターズ氏によれば、子どもを出産できる年齢を超えている多くの中国人がアメリカ人の代理母を求めていると指摘している。

アメリカでは代理母の規制は連邦法にはなく、ネブラスカ州、ミシガン州、ルイジアナ州以外の州では合法になっている。中国人の代理出産の数は年間、少なくとも「数百件に上る」という。

ウォーターズ氏によれば、「米政府も、連邦機関も、医療従事者らも、誰も代理出産の実数を把握していない」と指摘している。要は、やりたい放題の状況になっているということらしい。

アメリカ憲法では、アメリカで生まれた子どもには自動的に国籍が与えられる。そうなれば子どもはアメリカで生まれた後に中国に帰って育ったとしても、アメリカ国籍を維持でき、米国民と同等の権利が与えられる。そうなると、実態がわからないままに、代理出産によってアメリカ国籍を取得する中国人が増えていくことになり、「国家の安全保障への脅威になっている」と懸念されているのである。専門家らの間では一刻も早く連邦政府が規制を行わないといけないとの声が出ている。

アメリカで増える中国人の代理出産については「スパイチャンネル~山田敏弘」の「中国人がアメリカで代理母を使いまくって大問題!」でさらに詳しく説明しているので、ぜひそちらをご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー国軍、地震後の停戦期間中も攻撃継続 民間

ビジネス

野村HDの前期純利益、約2倍で過去最高 北村CFO

ワールド

中国、米関税の影響大きい企業と労働者を支援 共産党

ビジネス

スイス経済、世界的リスクの高まりに圧迫される公算大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story