コラム

大統領選挙に見るフランス政治のパラダイムシフト

2017年04月04日(火)17時30分

「右でも左でもない」というスタンスで躍進するマクロン前経済相 Patrick Kovarik-REUTERS

<中道系独立候補のマクロン前経済相の躍進はフランス政治に構造変化が起きていることを示している。伝統的な左右対立の構図の枠を超える動きで、これまでの常識では理解しがたい。これは一体どういうことなのか、またなぜそうなってしまったのか?>

最近のフランス政治に関しては、4月23日(第1回投票)に迫った大統領選挙を前に、国民戦線のルペン候補の帰趨に関心が集まりがちだが、実はその陰に隠れて、フランス政治のパラダイムシフトとも言うべき構造変化が起きていることが見逃されている。それは、ルペンの躍進のほか、左右両派の既成政党の不振と、その枠外で颯爽と登場してきた新星、マクロン候補の躍進に端的に示されている。

マクロンは、高級官僚、銀行幹部を経て、オランド社会党政権の下で、大統領補佐官、経済大臣を務めた。その職を辞して、「右でも左でもない」という立場から、政治運動「さあ前進!」を立ち上げ、2016年11月の出馬表明以来、中道左派、中道派、無党派層からの支持を集め、急速に台頭してきた。

今や、どの世論調査でもルペン候補と1〜2位を争う勢いを示しており、仮にこの二人で第2回の決選投票になった場合、マクロンがルペンを破って大統領に選出されるというシナリオが、現実味を増している。そうなると、フランス第5共和政史上、最も若い39歳の大統領誕生ということになる。

片や既成政党の側はどうか。共和派のフィヨン候補は、夫人の議員秘書架空雇用疑惑問題の処理をめぐる党内の結束の乱れ、支持者の離反により、支持率の低下に悩む。社会党のアモン候補は、党内左派をまとめるのに精一杯で、伝統的社会党支持層や党内右派有力者のマクロンへの鞍替えを止められない。社会党は瓦解の危機すら囁かれるに至っている。この主要2大政党の候補は、それぞれの党の予備選挙を勝ち抜き、正式な候補でありながら、いずれも勝ち目なし、というのがすべての世論調査の示すところだ。

RTX31HOJ.jpg

フランス大統領選の候補者 左から、フィヨン、アモン、ルペン、マクロン、メランション REUTERS/Christian Hartmann

こうした既成政党の凋落ぶりは、マクロンのせいだけではない。急進左派のメランション候補は、かつての左派戦線を母体とした「不服従のフランス」を立ち上げ、社会党に飽き足らない左派支持層の支持を受けて、社会党のアモン候補を上回る勢いを示す。ルペン候補は、社会党と共和派を十把一絡げに体制政党と決めつけ、敵視することによって、反エリート感情をもつ有権者の支持を集め、伝統的左派支持層にも食い込んで党勢を拡大している。また、ソフト化によりウィングを広げ、もはや単なる「極右」政党ではないことは前回のコラムで紹介したとおりだ。

【参考記事】フランスに「極右」の大統領が誕生する日

これらは、伝統的な左右対立の構図の枠を超える動きで、これまでの常識では理解しがたい。これは一体どういうことなのか、またなぜそうなってしまったのか?

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少

ワールド

シリア北東部で新たな戦線、米支援クルド勢力と政府軍

ワールド

バイデン氏、アンゴラ大統領と会談 アフリカへの長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story