最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
コーヒーと自転車の町、ポートランドの自家焙煎ロースター『3つの持続可能なコンセプト』
|ローストした豆を自転車で配達。当初から変わらぬ大切な『3つのコンセプト』
『エコ目的で、自転車でコーヒーを売り走る!』という、ポートランドらしいビジネスの本家本元のトレイルヘッド。この自転車配達というコンセプトは、その後、他の焙煎店もこぞって行うぐらいに一気に市内で広がっていきます。
配達は全てサイドカーゴ付き自転車で。とはいえ、雨降りの多いポートランドで、この形態での配達を続けていくのは一苦労。
サイドカーゴは、大切な豆を守るための幌付き。さらに電動自転車も追加しながら、現在もこの配達方法を継続中です。
ではどうして、この様なコンセプトに至ったのか。その理由を聞くと、目先の経費削減だけではない深い言葉が返ってきました。
「持続可能なビジネス・生活の大切さ。それが自分のビジネスの優先項目だったからだよ。口先だけ持続可能を謳ったり、飾りでSDGsの腕章をつけていても意味がないからね。大切なのは、その業界の模範となること。自転車での配送だけでも、中小ビジネスを黒字展開することが可能だ。そう他のブランドや企業に理解してもらいたいという思いがあるんだ。」
複数の企業が、各社少しずつ持続可能的な取り組みを行っていく。そうすることで、地域社会へインパクトとして徐々に広がっていく。
自転車がより増えて車やトラックが減れば、その分環境が良くなる。公害も軽減する。静かで安全な環境の道路が増えることで、温室効果ガスも削減されるわけだからと説きます。
この様なユニークなコンセプトから、生み出された3つのキーワード。
豆を仕入れる際には、「この3つがクリアーされている生産者からのみ仕入れる」という信念を持ち続けます。
① エシカル
a. 『女性農家や弱小農家からの仕入れ調達』業界での力が弱い生産者からコーヒー豆を仕入れること、支援し続けること。実は、これはアメリカでも珍しいのです。
b. 『持続可能性を重要視』袋パッケージは、コンポスト可能製品のみ使用。自転車による配達など、SDGsに基づいて可能な限りできることは全て行います。
c. 『収益の一部は地域へ寄付』ポートランドやコーヒーの生産地の活動に、必ず寄付をします。
② クラフト
a.『手間暇惜しまず、少量ずつの焙煎』大量生産しないことに徹しています。もちろん、その豆の持つ最高の風味を引き出すために、正確に手を抜かず焙煎をするのはあたりまえのこと。
③ デリシャス
a.『世界中のより良い生産者から、おいしい豆を厳選』総合的な観点から、素晴らしい豆とされるものだけを仕入れる。そして、それを可能な限り美味しく焙煎することに徹しています。
|マイクロ起業のコロナ禍の対策
徹底したこだわりで、マイクロ・ロースターとして順調にビジネスを伸ばしてきたトレイルヘッド。
その経過として、持続可能とローカルをキーワードに、一軒一軒足で回ってセールス・マーケティングを行っていきました。この地道さとコンセプトへの共感から、地元の名だたる地産地消レストラン、デザートショップ、オーガニック系スーパーで次々に取り扱ってくれるようになったといいます。
さらには、大量焙煎生産をしないということからも珍重され。起業以来12年間、右肩上がりに成長。
しかし、そこで突然のコロナ禍が全てのビジネスを襲います。
そこで、チャーリーさんが先ず速攻で行ったことは、オンラインへの販売展開の拡張。同時に、リサーチや分析も即刻行いました。
そこから判ったこと。それは、ステイホーム時間が増えたことで、人々は質の高い安らぎを求めているという点でした。そのことから、さらに最高のコーヒーを提供するために、品質とブランディングを見直す時間も拡充していくのです。
外でお金を使う機会が減った市民は、家の中で安らげるモノ・コトへの消費に使っている。そんな経済の背景から、売り上げは急激に減少することは無かったといいます。
しかし、現在のポートランド近郊市を見渡すと、このような良い話だけではないようです。
コロナという向かい風を受けて、多くのブランドやカフェが閉店に追い込まれたり。また、コーヒーだけでは商売が成り立たなくなり、アルコールを提供するカフェバーに転換したブランドも少なくありません。
「ご時世に合った現象なんでしょうね。夜も稼ぎ続けられるカフェスペースがあることは、ビジネス形態としては良いこと。とはいえ残念なのは、セカンドビジネスとして夜の時間を開放しないと生き残れないという点ですよね。もちろん、ビジネスを広げるという夢の一つのであれば素晴らしいのですが。生き残るためだけの手段なら、経済的にも労力的にも疲弊し続ける一方だから。ビジネス続行は難しい。」
周りの状況を冷静に分析しながら。さらに、改善策から新しいチャレンジをコロナ禍に実行するチャーリーさん。
|新しい時、そしてプレイスを見据えた新たなチャレンジ
コロナ禍、ついに一つの決断をします。より広いスペース、より安価なレンタルを求めて、市内のシェアーワーキング工房への移転実行です。
これが功を奏して、現在では8種類に幅を広げての焙煎販売となりました。通年取扱品が5種類、季節限定品が3種類というラインアップです。
元々、トレイルヘッドの価格は通常か少し低めの設定です。
とはいいつつも、原材料や輸送代などの上昇が止まらない状況。商品価格を均等に、10%アップせざる得なかったと静かに語ります。
「ありがたいことに、値上げ後も売上は好調です。長年、トレイルヘッドのコーヒーで目覚める生活を続けてくれる人々。その暮しを守るという小さな使命に、生きがいを感じているところです。」
そして今、コーヒービジネスでシビアな問題となっているのが地球温暖化。コーヒーの産地によっては、猛暑からくる干ばつ。また、洪水などに見舞われて生産量が減少しているところもあります。
真剣に、生産者の生活、生産数を守るという事にこころを砕いていかなければ。そんな焦りにも似た思いだとチャーリーさんは説きます。
|日本の皆さんへの小さなアドバイス・・とは?
日本でも、サードウェーブコーヒーの影響で、小さなカフェやコーヒーロースター店が多く生まれ続けています。
そういうオーナーの方々へ。そして、コーヒー好きの方へのアドバイスは。そう尋ねると、ゆっくりと暖かなことばで締めくくってくれました。
「本当に素晴らしいコーヒーとはなにか。このことを日本人は、よく理解していると常に感じています。これは飲食全般だと思いますが、とにかく品質へのこだわりがスゴイ、素晴らしい。
でも同時に、これだけ多くのロースターカフェが日本に存在すると、小さなブランドのビジネス展開と運営持続は非常に難しいのではないでしょうか。
今、ひとりのマイクロ・ロースターとして言えること。それは、品質にこだわり続けること。さらには、これからの時代、持続可能なコーヒーというモノとコンセプトに気を配ることが大切です。
同時に、その地域のコミュニティ的存在=場になること。本当においしいものを提供し続け、地域に開放する安全な心安らぐ場を提供し続けていくことが、本当の持続可能なプレイス・ブランドになるのだと信じています。」
コーヒービジネスだけではなく、すべての業界やモノ・コトに通じる現代のコンセプト。それが、持続可能、コミュニティ、安全・安心。
美しい小さな豆が、たくさんの人の手に育まれて成長していく。その後、長い道のりを旅しながら、さらにたくさんの人に触れられ。そしてついに、その旅路を終え。今、あなたのカップに注がれる。
琥珀の芳醇なアロマに包まれながら、あなたはどんな旅を想像して今日の一杯を飲みますか。
次回は、『スペシャルティ コーヒーEXPO in Portland』の特別レポート! 世界中のコーヒー業界のプロが集結する見本市が、4月末にポートランドで開催されます。この世界最大級のイベントに、メディア取材者として招待をされた私もワクワク! 今年は、どのような 最新コンセプトのコーヒー豆、生産者、技術、関連ツール、輸入業者が展示発表されるのでしょうか。季節限定に見合ったコーヒー? 持続可能コンセプト? 新しい時代のビジネス等々。5月中旬掲載です!
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
Facebook:Yayoi O. Yamamoto
Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)