最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
【物価高】価格改定の真の意味って?! 今の時代だからこそ、米ポートランド・ラーメン店がめざすコト
日本の関東を中心に店を構える、まるきんラーメン。有名芸能人にも、そのファンが多くいることでも知られています。そのマルキン・ジャパンとのパートナーシップとして、2015年に海外第一号店としてスタート。ポートランドのラーメンブームを牽引してきました。
オープン以来、店内はラーメン好きの人々で溢れて活気を帯び。本格派ラーメンがついにポートランドでも市民権を得た。長蛇の列をTVカメラでとらえながら、熱いレポートを送った記憶がよみがえります。
「コロナ禍の2021年にパートナーの所有権を買い取り、キンボシラーメンという名前に変更したのです。」オーナーのデイビッドさんは、満面の笑みで話を始めます。
オーナーシップを買い取ることで、本来提供してきた品目以外のメニュー拡大が可能になったとのこと。
「特に力を注いだのが、ポートランド近郊に多くいるビーガン向けのメニュー開発です。元来の鶏や豚ベースのスープ。それを、ビーガン用のスープに変更するために改良を重ね。今では、店の人気メニューとなっています。それぞれのお客様の食生活と嗜好に寄り添う形で、日替わり、季節メニューなどが多いのが特徴です。」
アメリカにおける、80年代からの寿司ブーム。その後に巻き起こったのが、東と西海岸を中心とした近年のラーメンブーム。
驚くことに、コロナ禍から現在の物価高騰でも、キンボシラーメンの人気は衰えることを知らないと言うデイビッドさん。
日本人シェフが率いる、麺から手作りをしている本格的なラーメン店で働きたい。そう望むアメリカ人は後を絶たない。そう話しながら、コロナ禍の話へと移行します。
「私は企業のオーナーとして、勝ち続けることに常に心を向けている。それはビジネス的にという意味と同時に、お客様の心の中で勝ち続ける。そんな意味合いが強くあります。ビジネスの基本のきである、お客様との信頼関係。コロナ前からコロナ禍でも、引き続き支え続けてくれたお客様があってこそ。商売というものは成り立っていくわけですから。」
コロナ禍では、必然的に3カ月ほど休業。その期間、ラーメンをパッケージして届けることを計画し、独自のパッケージからなるデリバーサービスを開始します。
その後、通常店舗の運営に戻り。現在では25名の従業員を抱えて、毎日8種類のメニューを提供しているキンボシラーメン。
|原材料価格との戦い。でも、それより大切なもの
それでは、最近の原材料の価格高騰の影響から、キンボシラーメンの価格はどう変化をしているのでしょうか。
「仕入先は、軒並み原材料を値上げ。さらにそこに加えて、それらの配送料の値上げも。苦しい現実ではありますが、当店のメニュー価格の値上げに関しては、最低限に留めることに成功しています。
何よりもありがたいこと。それは長年のお得意様が、値上げに対して『理解』を示してくださっている点です。」
現在のメニュー価格は、ラーメン15ドル~(約2千円)。餃子10ドル(1350円)。人気が高い親子丼10ドル。各量は、ほぼ日本と同じです。
日本では、ラーメンにこの値段を出すなんて馬鹿げていると思うかもしれません。
元々、安くて美味しい庶民の食べ物というイメージがあるラーメン。でも、今と昔のラーメンとでは大きな違いがあります。良質な素材、材料コスト、常においしさを求める客層のニーズに沿っていくと、安く提供することは難しい。
にもかかわらず、今の経済状況からは、日本のラーメン店は価格を低く設定するしかないという現実。
それに比べてアメリカ国内では、『ラーメンは2千円位するもの』と最初から広まっていった背景があります。
あえてスープは全部飲まず。持ち帰り容器に入れて、次の日のスープランチとする。持ち帰り文化からか、2食分の価格という考えをしている人も多い。こんなことからも、日米のラーメンに対する考えが違うことがわかります。
それでは、今の人手不足による『人件費高騰』という問題。それがメニュー価格の変更に繋がる現実。この点は、どう売り上げに響いているのでしょうか。
「料理の仕込みに細心の注意を払い、お客様に喜んでいただけるような料理を作りあげる。それを担う働き手に十分な給料を払う。総合的なビジネスの視点から見ると、人件費がマイナス要因になったことはありません。
だって、良い作り手(働き手)がいなければ商売は成り立ちませんから。これは、どんなビジネスでも同じことですよね。
中小企業で働く人とその生活を支援する。そんな意味からも、弊社では常に市場価格以上の給与を支払ってきました。加えて、他の一般外食企業では稀ですが、健康保険や退職金制度も設定しているんです。」
物価上昇に見合った価格設定にする理由。それは、従業員の給料の確保、すなわち働く人の生活向上に直接つながるという真っ当な理由。
ラーメンの粗利の中から出している給与。そのためにも、その価格に見合う価値のある一品を提供すること。そんな基本を良しとする姿は、まぶしいぐらいです。
さらに、『人件費以外の小麦粉や卵などの原材料の高騰』について説くデイビッドさん。
「コロナ以前や2022年に比べて、原材料価格は大体10%から30%上昇しています。残念なことに、サプライヤーは前年度分の損失を取り戻そうと躍起になっている感じです。」
では、これに対応するため。どのような策を案じているのでしょうか。こう問うと、この様な時だからこそ、ビジネスの基本に立ち返ることが最も大切だと続けます。
「当たり前とされることをする。すなわち、おいしい料理を作り続ける。 お客様と同様スタッフも大切にし続ける。 私たちの周りにある地元ビジネスをサポートし続ける。 難しいことを簡単にする策を案じ実行し続ける。
閉店してしまった町の多くのレストランと同じように、キンボシラーメンも今なお弱い立場に置かれています。でも、互いに思いやりを持って、持続可能なビジネス形態を追及していくこと。これがなによりも、今の時代には必要なことだと痛感しているのです。」
地元の中小企業をサポートしてあげてください。一人ひとりの思いやりと支援が、そのビジネスの底力となるのですから。
最高のイノベーションは、チャレンジがある時に必然的に生み出される。そう締めくくってくれたデイビッドさんの笑顔は、多くのポートランドの人々の心に焼き付いているはずです。
生活必需品の高騰から、価格破壊系の店舗だけで買い物をする。それはそれで今のご時世、仕方のないことだと感じます。
でも同時に、地域の中小企業へのサポートがより一層必要になってきている。このことも忘れないでほしいのです。
地域密着型のお店でモノを買い、食べる。そうすることで、中小企業で働く人に必要な賃上げは、より身近なものになっていくのではないでしょうか。
2023年春、大企業のベースアップに満額回答で応じる企業が相次いでいます。ですが、大企業に属するのはほんの一握り。
地域のビジネス活性化のため。中小企業のため。そして何よりも、あなたの日々の暮らしの潤いとして循環されるため。
今日、どこで何を買うのか。食べるのか。そんなことが問われる気がします。
あなたの地域のお勧め買い物スポットはどこですか。そこには、どんな働き人がいるのでしょうか。ぜひ教えてくださいね。
コーヒーのまちとしても有名なポートランド。その町で、世界中のコーヒーのプロが集結する見本市、Coffee EXPOコンベンションが催されます。(その様子は、特別記事として掲載予定)そのEXPO前段階として、次回は、ポートランドの小規模コーヒーロースターに密着! 世界規模のブランドとは一味違ったコンセプト。ちょっと変わった自転車行商から、有名スーパーに陳列されるまでのアプローチ法。物価高に対する臨機応変さとは? 日本の中小ビジネス関連の方のみならず、コーヒー好き必読の内容。3月中旬掲載です!
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)