オーストラリアの診察室から
オーストラリアの違法薬物へのハームリダクション(Harm Reduction=被害の低減)
違法薬物は様々な健康被害を及ぼします。違法薬物に対する政策は国によって様々です。オーストラリア、カナダなど世界で80以上の国に違法薬物に対するハームリダクションのための制度があります。ハームリダクションとは健康被害や危険をできるだけへらす手段です。
オーストラリアではNeedle and syringe exchange programs(針と注射器システム)と呼ばれるハームリダクションが以前から良く知られています。これは病院、コミュニティヘルスクリニックや薬局で新品の清潔な針や注射器を取得することができ、また使用済みの針や注射器を安全にすてる場所を提供するサービスです。オーストラリアでは1986年頃からこのプログラムが始まりました。オーストラリアではヘロインなどの薬物の使用は違法ですし、元より使用しないことが一番です。このプログラムには針や注射器の使いまわしによるエイズや肝炎などの感染症の広がりを防ぐ目的があります。またこのプログラムから薬物をやめる治療につながることもあります。
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数年前からオーストラリアで始まった違法薬物に対する新しいハームリダクションはピル検査です。これは音楽フェスティバルなどの来場者を対象にした取り組みで2019年から首都キャンベラがある首都特別区(ACT)で始まりました。コロナでフェスティバルなどもなかったのでその後あまり話題になりませんでしたが、クイーンズランド州でもピル検査が始まるようです。この取り組みはまだ州によって意見が分かれており、すべての州で導入されているわけではありません。2019年に行われた2000人以上を対象にしたアンケート調査では63%がピル検査を支持すると答えています。
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ピル検査とは違法薬物を音楽フェスティバル会場などに設置された検査テントに持っていくと成分を検査し内容を説明してくれるというシステムです。そのようなフェスティバル会場には警察官もいますで、薬物を没収されたり、逮捕される可能がまったくないわけではありません。しかし州政府の説明によると検査によって薬物による被害を抑えるのを優先するとのことです。 どのような物質がその薬物に入っているのかを知ることで、使用を考え直す可能性もあります。違法薬物には様々な危険な混ぜ物が入ってる場合もあり、違法な成分と同じかそれ以上に危険な可能性あります。この制度の効果に注目しています。
参考
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/331/
https://www1.racgp.org.au/newsgp/clinical/almost-two-thirds-of-australians-support-pill-test
https://www.health.act.gov.au/about-our-health-system/population-health/pill-testing
https://www.9news.com.au/national/queensland-pill-testing-music-festivals-drug-use-harm-minimisation/e6317676-7ece-414c-aa52-0ac8bfdfcfa7
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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