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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

オーストラリアと狂犬病

画像: Hailshadow_iStock

最近日本でウクライナ避難民のペットの隔離期間がニュースになっています。海外からのペットの隔離は多くの国で行われています。オーストラリアも外国からの動物の入国は厳しく規制されています。オーストラリアは現在狂犬病がなく、この狂犬病フリーの状態を保つためと、その他の動物関連の病気を防ぐことが目的です。オーストラリアでは国の狂犬病状況によって必要書類などが変わってきます。狂犬病が流行している国からは動物を連れてこられない場合もあります。隔離期間が3段階に分けられ、10日から30日ほどの隔離が必要です。

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画像: Michael Edwards_iStock

オーストラリアではペット所有のルールは住んでいる州や自治体により多少異なります。しかし基本的なルールは同じで、マイクロチップをつけることが義務づけられています。また住んでいる自治体での登録が必要な場合が多いです。ブリスベンでは3匹以上の猫を飼う場合は登録が必要になります。犬の場合は何匹いるかに関係なく登録が必要です。

オーストラリアでは狂犬病はありませんが、コウモリによるリッサウイルス感染症があります。リッサウイルス感染症は、狂犬病に病型が類似する感染症です。オーストラリアでは4種類のコウモリがこのリッサウイルス感染症を起こすウイルスをもっている可能があるとされ、さらに病気やケガをしているコウモリの場合、ウイルス感染の可能性が高いとされています。また、コウモリから人間に感染することもあり、その際の主な治療法は狂犬病と同じく症状が発症する前であれば狂犬病ワクチンの接種とともに狂犬病用免疫グロブリンが使用されます。コウモリはそこら中にいますが、コウモリは基本的には人を襲うことはありません。そのためコウモリによるリッサウイルス感染症の人への被害は多くありません。しかし道路で車にひかれたコウモリを助けようとして噛まれてしまう人は時々います。1996年から実際にオーストラリアでコウモリに噛まれるなどして、リッサウイルス感染症で亡くなった方は3名だけです。しかし確率は低くともリッサウイルス感染症の可能性があるためほとんどの場合すぐに狂犬病ワクチンと狂犬病用免疫グロブリンで治療が行われます。ブリスベンでいくつかの救急か州の公衆衛生機関から狂犬病用免疫グロブリンを入手できます。コウモリから犬や猫への感染症もあるとされていますが、そこからまた人間に感染するというケースは今のところないようです。そのためかオーストラリアでも狂犬病のワクチン接種は狂犬病の多い地域に行く人や頻繁にコウモリと接触する可能性のある人にのみ推奨されています。

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画像: CraigRJD_iStocK

狂犬病はオーストラリアや日本ではみられませんが、まだ多くの国で問題になっています。一度発症すると治療薬はなく致死率は100%です。狂犬病の可能性がある国に旅行予定の人に狂犬病ワクチンの必要性を説明しても動物には近づかないようにするから予防接種の必要はないと考える人もいるのが現状です。しかし、本人がどんなに気をつけていても野生の動物がどのような行動をとるか、そしてその国に狂犬病が存在する以上、どのような経路で自分が感染するかは未知数です。狂犬病の予防について今後もっと多くの人に知ってもらう必要性があると 考えています。

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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