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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

オーストラリアンオープン

ymgerman-ISTOCKS

今年のテニスのオーストラリアンオープンは、2月8日からメルボルンで始まる予定です。しかしいくつかの難題を抱えています。

選手が感染

メルボルンにロサンゼルス空港とアブダビからチャーター便で到着したトーナメント参加選手の中に新型コロナウイルス陽性者が11名いたことから、同乗していた選手72名は2週間のホテル隔離措置を余儀なくされました。日本人選手のダニエル太郎選手や錦織圭選手もこの72人に含まれていて、日本でも話題になっています。


一方、アデレードに到着した大阪なおみ選手含む選手たちの乗ったチャーター便では新型コロナウイルス陽性者がいませんでした。2週間の隔離は必要とされますが、一日5時間の屋外での練習が許可されています。


メルボルン到着の72人の選手は部屋から一歩も屋外でることは許可されておらず、一部の選手から不満の声が上がっています。またトーナメントの前に必要な練習ができないことによる怪我を心配する声もあります。一部の選手からは飛行機で感染者が出た場合、厳格な隔離をしなければいけないという説明が事前になかったというコメントもでています。


メルボルンとオーストラリアの

ホテル隔離についての説明がどこまで選手にきちんと行われたかは双方の意見が食い違うため定かではありません。しかし不満をもつ選手に対して批判的な意見もあります。そもそもメルボルンは112日間に及ぶ世界でもかなり長い部類にはいる厳格なロックダウンを行いました。そして新型コロナウイルス市中感染無しの状態を再び作りました。メルボルンの市中感染はもともとはホテル隔離のミスから発生したため、ホテル隔離システムにはより一層厳しいスタンダードが求められています。国によっては14日の隔離を必要としない国もあるようですが、オーストラリアは新型コロナウイルス対策として14日間のホテル隔離をパンデミック発生の初期から行っています。海外からオーストラリアに入国するものは基本的に全員隔離が必要とされます。稀に特例で自宅での隔離が許可される場合もありますが、本当に稀です。そのためオーストラリア国民からすると隔離は当然という感じです。また隔離が厳しいと海外の選手からの苦情があるようですが、部屋からでられないなど規制は他の海外帰国者も同じなので、特別厳しいわけではありません。

開催反対の意見

現在、未だに3万5千人以上のオーストラリア人がコロナウィルスのせいで海外からオーストラリアに帰国できていません。半年以上も帰国を待っている人もいます。急な飛行機のキャンセル、隔離ホテルの数、飛行機の数の影響などが帰国を難しくしています。今回のオーストラリアンオープンには選手やスタッフを合わせて1200人ほどが海外からオーストラリアに入国しています。そしてこの1200人の入国は海外から帰国しようとしているオーストラリア人の帰国の流れに影響します。様々な事情で海外から帰国できないオーストラリア人に対して、中には、帰れないのはその人たちの責任で、新型コロナウイルスが広まり始めたころに帰国しなかったのがいけないなどと批判する意見もあり、国境を開けること自体に反対の人もいます。


オーストラリアンオープンの開催自体に反対の人もいるようです。オーストラリアの2021年のF1の中止が発表されてるので、なぜテニスはやるのかとの意見もあります。選手は参加すればシングルの場合、最低でも10万豪ドルの賞金が手にはいるので、我慢すべきだという意見もあります。


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(GordonBellPhotography-ISTOCKs)

開催する理由

オーストラリアとしてもオーストラリアンオープンを開催しなかった場合、他国で開催されてしまうかもしれないとの懸念があります。また長期のロックダウンで経済的ダメージの大きかったビクトリア州にとってもオーストラリアンオープンの開催はかなり重要な収入源です。ちなみに2020年のオーストラリアンオープンでは3億8700万豪ドルの経済効果をビクトリア州にもたらしました。


まだ世界中で新型コロナウイルスが収まらない中、開催されるオーストラリアンオープンは様々な問題を抱えていますが、大会開催後に市中感染が広がらないよう祈るばかりです。



参考

https://theconversation.com/self-entitled-prima-donnas-or-do-they-have-a-point-why-australian-open-tennis-players-find-hard-lockdown-so-tough-153631
https://www.theage.com.au/sport/tennis/volley-with-a-view-why-and-how-do-you-hold-a-grand-slam-in-a-pandemic-20210120-p56vid.html
https://www.theaustralian.com.au/sport/tennis/australian-open-to-go-ahead-as-anger-brews-over-covid-charter-flight-handling/news-story/86b35c09538f70f21599bee3662834c0
https://www.9news.com.au/national/australian-open-coronavirus-second-charter-flight-records-positive-covid19-case/365e6652-6816-4be5-9c9b-85e94f6f6d20
https://www.theguardian.com/australia-news/2021/jan/09/australians-stranded-overseas-say-slashing-arrival-caps-makes-returning-home-near-impossible
https://number.bunshun.jp/articles/-/846771
https://www.premier.vic.gov.au/strict-quarantine-rules-serve-safe-australian-open
https://www.nbcnews.com/news/world/australians-stranded-abroad-struggle-get-amid-pandemic-n1249318

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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