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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

Don't become complacent

(hivendu Jauhari-ISTOCK)

以前のブログで述べたように、オーストラリアのほとんどの州では市中感染がない日が長く続いています。しかしやはり油断は大敵のようです。最近オーストラリアのニュースでは「Don't become complacent」というフレーズをよく耳にします。Complacentとは自己満足という意味で、「Don't become complacent」とは『油断しないように』となります。

一番感染者数が多く、長い間ロックダウンしていたメルボルンでもやっと市中感染がない日が続き、すべての州境が開くかと思っていた矢先、サウスオーストラリア州のアデレードで、海外からの帰国者用隔離ホテルで働く関係者からコロナ陽性者がでました。数日後、そのホテルで勤務していた清掃業務の人が接触感染したと報告されました。接触感染とは感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手でドアなどに触れるとウイルスがドアにつき、他の人がそのドアを触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ることにより粘膜から感染することです。つまり、物を介して感染してしまうのです。

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(bgblue-ISTOCK)

サウスオーストラリア州の発表によると感染予防対策はガイドラインに従って行われていたそうです。メルボルンの時のようなガイドライン違反などはなかったのです。それでも今回の感染拡大を受けて、隔離ホテルプログラムの感染対策は再び見直されることになりました。

アデレードの市中感染者の数は11月28日の時点で33人となりました。アデレードで再び新規の市中感染者が出たときは、「people were complacent」と、ニュースで言われました。今まで多くのアデレードの医療関係者はマスクを着けずに診療していました。 これは州によって感染予防方針が違うので誰も違反したわけではありません。アデレードではコロナウィルスの市中感染は長い間ありませんでした。そのため医療機関での無症状の患者を受診する際のマスクの着用や町中のマスクの着用は義務付けられていなかったのです。私が住むブリスベンでも現在、長い間市中感染がないため、医療機関で風邪の症状などがない患者を診る場合は、患者も医療関係者もマスクをつける必要はありません。長い間ロックダウンで、マスクの着用が義務付けられていた州の人たちからと「complacent」で気を抜きすぎだったと思われている印象をニュースやSNSから感じました。しかし、やはり市中感染がない分、コロナはないから安全という気のゆるみが私の周りでも広がっている気がします。

アデレードの件で新型コロナは常に油断できないものと改めて考えさせられました。アデレードは感染が発覚した初期の段階で6日間のロックダウンに入りました。これはアデレードのピザ店でピザで買っただけの客が感染し、サウスオーストラリア政府は感染力の強い新型コロナの可能性があると心配したからです。数日後、実はこのピザ屋で感染したといっていた人物は客ではなく、ビザ屋で勤務していて、一緒に働いていた人物がコロナ隔離に使われるホテルでも働いていたことが発覚しました。この真実が明らかになったあとロックダウンは緩和されました。しかしたった一人の嘘でアデレードがロックダウンになったため、このピザ屋は現在ネットで大炎上中、そして警察も捜査をする大事態となりました。そして最初に嘘をついたピザ屋の従業員も実は隔離用ホテルで働いていた可能性があるとして現在、捜査中です。

ブリスベンでも先日ホテルで隔離中の人が錯乱し、ホテルから脱走しようとし、それを阻止しようとした警官10人が隔離になりました。後にその錯乱した人物はコロナ陽性と発覚しました。

オーストラリアはかなり強固な隔離システムを作っていますが、ワクチンができるまではやはり油断はできなさそうです。
Don't become complacent!

参考

https://www.abc.net.au/news/2020-11-18/how-does-covid-survive-on-surfaces-adelaide-cluster/12894780
https://www.abc.net.au/news/2020-11-17/adelaide-coronavirus-cluster-how-it-began-explained/12891226
https://www.abc.net.au/news/2020-11-17/one-new-case-coronavirus-sa-premier-steven-marshall-says/12890238
https://www.afr.com/policy/health-and-education/no-new-covid-community-transmission-in-sa-20201122-p56gqy

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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