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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

個人単位で環境問題に取り組む!ブラジルのフードロス削減アプリを使ってみた

購入したお楽しみパッケージは「私を助けてくれてありがとう!」と書かれた袋いっぱいにパンやお菓子が入っていた(photo by Aika Shimada)

緊急事態宣言から3年。
今年はカーニバルが通常通り開催され、ようやくブラジルらしさを取り戻したように感じる。
私たち音楽家は心配なく演奏ができるようになり、イベント会社や旅行会社も忙しそうだ。

「パンデミック前」と「パンデミック後」で働き方が変わった人も多い。

日系企業に勤める友人は未だにハイブリッドワークだし、多かった出張も今ではオンライン会議が率先して行われるようになったそうだ。
特に大きな変化があったのは飲食業だろう。

南米最大都市であるサンパウロをはじめ、都市部ではフードデリバリーが盛んになった。
ifoodやウーバー・イーツのようなデリバリー専門アプリでは、食事だけでなく日用品や薬品まで購入できる。
これらのアプリへの高い手数料やドライバーへの雇用問題が明るみにでると、独自のデリバリーシステムを作るお店も増えてきた。
ブラジルで最もよく使われるメッセージアプリWhatAppでもアプリ内で利用できる販売システムがリリースされ、多くの小規模店に使われている。

ネットショッピングも同様、多くの人に利用されるようになった。
パンデミック前は日本と比べるとブラジルのネットショッピングは種類も少なく、詐欺に遭うというマイナスイメージも強かったが、パンデミックを境にガラリと変わったようだ。
ネットショッピングに抵抗があった友人も、今ではすっかりAmazonを使いこなしている。

このように、パンデミック中に「アプリを利用したお買い物」は一気に広まり定着した。

|アプリによる新たな試み

アプリを利用することによって、これまでになかったサービスも提供できるようになった。
昨年からブラジルの都市部でフードロス削減アプリが注目されている。
友人に教えてもらい、私も早速ダウンロードしてみた。

世界資源研究所によると、ブラジルでは年間約 4,100 万トンの食品が廃棄されている。
これは同国の食品生産量の30パーセントに値し、世界で最も食品を廃棄する10ヶ国に含まれている。 充分な食事を獲れない人々が3,300万人いると言われるブラジルでは信じられない数字だ。

筆者は以前、高級ホテル内のレストランで演奏していた時期があったのだが、そこでビュッフェ式に提供されていた豪華な食事は、その日のうちに廃棄されると聞いて驚いた。
「全従業員が家族分も持ち帰るほど余っているのでは?」と従業員に聞いてみたが、食中毒など問題が起こった際にホテル側が責任をとれないことを理由に持ち帰りが禁止されているようだ。

このように廃棄せざるを得ない食品や、パンや生菓子などの保存がきかない食品を賞味期限が切れる前に予約して購入できるのが「Food to Save」というフードロス削減アプリだ。

|「Food to Save」の仕組み

同アプリは個人情報を登録し、住所を入れると「お楽しみパッケージ」を提供している店舗を近い順に表示してくれる。
「お楽しみパッケージ」には、このままだと廃棄される可能性がある商品が詰められており、最大70パーセントの割引料金で購入できる。
サンパウロでは最近コンビニエンスストアが増えてきているが、今でもパダリアと呼ばれる手作りのパン屋は人々の生活に欠かせない存在である。 しかしパンや生菓子は保存がきかないため、このアプリ内ではパン屋からの商品提供が最も多い。

|実際にアプリを使ってみた感想

私もこのフードロス削減アプリ「Food to Save」を利用してみたのでレポートしたい。

【注文から受取までの流れ】
①アプリをダウンロード
サンパウロで利用できるアプリは「Food to Save」の他に「Re-Food」などがある。 前者は大手チェーン店も含まれ、後者は人気店舗の登録が多い。

②個人情報を登録
名前、電話番号、メールアドレス、登録地(自宅や職場)を入力する。

③登録地に近いサービス提供店舗をさがす
住所別ではなく、商品のジャンル別に検索も可能。

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(画面キャプチャ/筆者提供)

④商品を選ぶ
商品は「お楽しみパッケージ」と表示されており、パン屋なら「Salgado(しょっぱい)」「Doce(甘い)」「Misto(ミックス)」から選べることが多い。
レストランなら「ご飯、タンパク質(肉や魚)1品、副菜3品」「ベジタリアンメニュー」などと表記されており、何が入っているかは開けてからのお楽しみだ。

⑤受取方法を確認する
「Food to Save」アプリでは店舗受取と配達(別料金)が選択できる。 店舗によっては受取時間が決まっているため要確認。 レストランは営業終了前の夜22時以降の場合が多い。

⑥支払いをする
料金にはアプリを利用する手数料も含まれており、店舗ではなくアプリ内で支払いを済ませる。クレジットカードとPIX(即時決済システム)が利用可。

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アプリ内で注文内容(履歴)とステータスを確認できる

⑦商品を受け取る
店舗で名前を言って商品を受け取る(本人確認は無し)。 私は自宅から最も近い店舗で、美味しいと評判のパン屋サンタ・テレーザの「お楽しみパッケージ」を購入した。

同店は1872年創業のサンパウロ市で最も古いパン屋で、食事も美味しいと有名だ。

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サンタ・テレーザの1階カウンター席(photo by Aika Shimada)
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2階には創業当時のサンパウロの写真も飾られている(photo by Aika Shimada)

奥のデリバリーカウンターへ向かうと、大きなバッグが用意されていた。
この大きな袋が私が購入した「お楽しみパッケージ」だ。 片手で持つのは重く、大きすぎてリュックに入らなかった。
店員さんによると、毎日3パック〜4パックが"助けられている"そうだ。

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到着した際に既にパッケージが完成していた(photo by Aika Shimada)

帰宅して1つずつ取り出してみた。
定価60レアル分を29.99レアルで購入したが、おそらく60レアル分以上入っているだろう。
中身は菓子パン4種類、クリーム入りのお菓子やミニクロワッサンなど。 賞味期限は翌日が目安だそうだ。

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商品は綺麗に梱包されている(photo by Aika Shimada)

想像以上に量が多く、家に遊びに来ていた友人に半分持ち帰ってもらった。

|環境問題に個人で取り組める意識を

「お楽しみパッケージ」を始めて購入し、簡単に注文できること、商品に満足したこと、そして少しでもフードロスを減らすことが出来たことで私はすっかりアプリにハマってしまいそうだ。

フードロス削減は、環境問題にも関係する。
廃棄物を減らすことで処理コストを削減することができるのだ。
また「Food to Save」アプリを経営する会社は、店舗だけでなく工場や大型スーパーと提携し、賞味期限規定のためにお店の棚に陳列できない商品を顧客に販売するシステムをテスト運用している。

ふと思い出したのだが、ブラジルに着いて2年目(2015年)、エコバックを使っていた私に対して、ブラジル人の友人は「あなた一人がエコバックを使っていても何も変わらない」と言った。
ブラジル人の楽観的な思考、広大な土地と人口の多さなのか、環境問題は政府が担当するものと考えているのだろうか。 政治や社会問題に興味関心のある友人なので、この発言にはびっくりした。
確かに、当時はスーパーでレジ係の人に「袋いりません」と言うと、不思議な顔をされたものだ。

それから8年、今では一部の都市でスーパーのレジ袋の無料配布が廃止された。
個人単位で環境問題に取り組むように変わりはじめている。

アプリによるフードロスの削減はもちろんその1つだろう。

アプリには登録地(自宅や職場)からのサービス提供店舗までの距離が表示されていること、店舗受取を推奨していることなどから、アプリは「割引がうけられる」という特典よりも「近隣のお店のフードロスを減らすことを重要視していることがわかる。
こうして地域で助け合いが生まれる。
商品の量が多い場合は友人やご近所さんにお裾分けすることもできる。

パンデミック後、ブラジル生活が新しいアプリの誕生でどんどん便利になっている。

【余談】
ブラジルの定食屋やレストランで提供される食事の量は日本人の感覚と異ります。
食べ切れない分は持ち帰りが可能なので、恥ずかしがらずに店員さんに「パラヴィアージェン(持ち帰り)」と言ってみてください。多く残っている場合は店員さんから「持ち帰りますか?」と聞かれることもあります。
もちろん、注文する前に何人前か確認するのも大切です。

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ブラジルを代表する料理フェイジョアーダ、「小」サイズで私と夫で分けて丁度良いぐらいである(photo by Aika Shimada)
 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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