南米街角クラブ
サンパウロ、肌で感じるアジア人への偏見と差別
4月10日、サンパウロ州にて47歳以上の公立及び私立学校の教師と教育関係従業者、続いて67歳以上の居住者に対するワクチン接種が始まった。
支持率の低下と共に大統領が人命を優先するまでに約1年、ワクチン確保にも出遅れたブラジル。
変異株の流行によって若い世代の入院者が増加していることもあり、市町村ごとにロックダウンも行っている。
投稿の書き始めが毎回新型コロナウイルスの近況報告になる程、ウイルスの猛威が収まる気配がない。
ここ数ヶ月、欧米にてアジア人に対するヘイトクライムに関するニュースが報道されているが、世界の中でも多くの移民を受け入れているブラジルではどうだろうか。
在ブラジル日本国大使館は、ブラジルに長期滞在する邦人向けに邦人在住者の被害報告をメール配信している。私が住むサンパウロ州の報告をみる限りだと、新型コロナウイルスを理由に脅迫や強盗被害などにあったケースは報告されていない。しかし、街中で心無い事を言われたという声は聞いている。
パンデミックが始まった頃にペルーの首都リマに滞在してた筆者は、コロナウイルスに関する中傷を三度受けた。リマの市場で一人で買い物している際、店員の女性に「あなた中国人?」と聞かれた。南米ではアジア人は一括りにされることは多いので慣れた質問である。「日本人です。」と答えると「それは良かった。一緒に働いている夫が、中国人は接客するなと言っているのよ。ウイルスがあるかもれないから恐いって。」と言われ、返す言葉を失ってしまった。
|ブラジルにて日本人のイメージは"優秀"な箱に入っている
コロナウイルスから話は遠ざかるが、南米においてアジア人は一括りにされる。
しかしながら、日本人は好感を持たれることが多い。例えば、ブラジルにおいて日本人は真面目で勤勉、"優秀"というイメージがある。ここで言う日本人というのには、日系人も含まれている。
これは日本人移民が農業に多大な影響をもたらしたことや、柔道や空手の礼儀作法、テクノロジー、あるいは南米で放送されている日本のアニメからきているのかもしれない。
私が肌に感じる限りだと、外国人としてこの地で生きる身として、特別嫌な思いをしたことはない。
どちらかというと、日本人が故に"優秀"という扱いに疲れることの方が多い。 これに対し、YoutuberのLeo Hwan氏は「アジア系のブラジル人は未だに作られたイメージの箱の中に入れられている。例えこれが"優秀"だという良い箱だったとしても、箱に入れられていること自体が問題だ。僕たちの見た目はアジア人かもしれないが、ブラジル人である。」と話している。 政治においても、社会においてもアジア人(この場合の多くは日本人を指す)は少数民族の良いモデルとして使われる。
|アジア系ブラジル人への偏見は差別に値する?
2018年にアジア系ブラジル人に対する偏見をまとめたビデオが配信され、これまでに24万回再生、多くの人々から「自分の身にもよく起こる。本当は傷ついている。」といったコメントが寄せられている。
一部の内容を訳してみた。
●文化的な偏見
・家でもお箸を使って食べるんですか?
・あなたの両親は厳しいですか?(教育熱心)
・犬を食べたことありますか?(他にも蛇や猫なども聞かれる)
●身体的な偏見や差別的な発言
・目をもっと開けて(アジア、主に東洋人の目に対する揶揄)
・あなたたちは日本人、韓国人、中国人の違いがわかりますか?
・何歳ですか?(実年齢より若くみられるため)
パンデミック以前から、アジア系に対する偏見が差別に繋がるという事態は存在している。
ブラジルではアジア人を"Japa"(日本人)というあだ名で呼ぶことが割と一般的であったり、敢えて自らそう名乗る人もいる程だが、「友人から呼ばれるのは許せるが、知らない人や親しくない人から呼ばれるのは嫌だ。」「私は韓国系移民なのに日本人と一括りにされるのは嫌だ。」という意見がある。 筆者も何度かそう呼ばれたことがあるし、日本人の友人とバーに飲みに行ったとき、手書き伝票のテーブル名にJapaと書かれていたこともあった。
|ブラジル人を"ガイジン"と呼ぶ習慣
ここでもう一つ重要な事を紹介したい。
ブラジル人がアジア系移民を箱に入れるように、アジア系移民たちも自分たち以外に対して何らかの別な感情をもっていた、或いはもっていることは間違いない。
例えば、日系ブラジル人の友人に「近々結婚するんです。」というと、「相手は日系人?それともガイジン?」と聞かれるのだ。
この"ガイジン"というのは非日系ブラジル人のことである。悪気がないということはわかっているが、不思議な感覚だ。
確かに、一部の日系コミュニティには未だに日本人の血を受け継いでいきたいという気持ちを持つ人もいる。移民の子孫である二世や三世となると現地の学校でポルトガル語を使うようになるため、日本語を話せない(もしくは理解はできるが話せない/書けない)場合が多いが、最近では三世もしくは四世のブラジル人が自分のルーツを知りたいと日本語を勉強する人もいる。
|ブラジルにおける偏見とそれに伴う人種差別
大手新聞社やメディアに大々的に取り上げられないだけで、実際はブラジルでもコロナウイルスによるアジア人差別が起こっていることは想像できる。
今では世界的に有名になったカーニヴァルや混血のサッカー選手の活躍で人種民主主義というイメージを作り上げることに成功したブラジルも、実際は経済的な格差が激しく、白人系ブラジル人の所得は黒人系及び混血のブラジル人の所得の74パーセントを上回る。
アジア系の話に限らず、貧困と偏見、それに伴う人種差別を受けるのが黒人及び混血のブラジル人であることは、ブラジルに住んでいれば見てわかることだ。
人種差別というのは人を傷つける行為や言葉だけで現れるものではない。
話を日系人に戻すが、私はブラジル音楽を勉強するためにサンパウロへやってきて、こんなにも多くの日系人に出会い、良くしてもらえるとは思ってもいなかった。
かつて日本人移民が多く住んでいたリベルダーデも今では中国人や台湾人の方が多くなっていることや、驚くほど大規模な日本歌謡のカラオケ大会など、実際に目で見たことを今後伝えていきたい。
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada