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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

パンデミックと音楽家たち その2

オンラインレッスンや配信のために、機材を買いそろえる音楽家も多い(Photo by iStock)

一時期はコロナウイルス感染者数世界第二位となったブラジルも、8月末頃から少しずつだが減少傾向に向かい、ウイルスと共に生きるスタイルを模索し始めた。
空路に関しても、国境を完全に封鎖したペルーやアルゼンチンに比べれば割と緩く、外国人登録証を所持している私は、何一つ質問されることなく一時滞在先であるペルーから入国できた。
もちろん入国後の隔離の義務もない。
それでも、大移動したリスクを考えて2週間は家に籠ろうと予め決めていた。

2週間の自主隔離が明けた翌日、友人2人と夕食の約束をした。
なんと8ヶ月ぶりの同居人以外の人との接触である。彼らも家族以外は誰とも接触しておらず、この生活に限界がきていたに違いない。
「誰とも接触してないから大丈夫!」と言いながら、マスクのままハグをした。

外出規制もあるが、今年1月からペルーに滞在していたため11か月ぶりの再会。早速私はペルー滞在についてハイライトだけを話した。
本当なら事細かに語りたいところだが、私達には話し合うべきことがあるのだ。それは、抱えている共通の悩みや不安を話して"共有"することである。

まず1つ目に、パンデミックの間、非常に孤独な時間を過ごしたということ。
私の場合、ペルーから出国できないことがより不安とストレスになっていたのだが、家族と住んでいる友人でさえ孤独に耐えられない日があったと話す。
コロナウイルスやその影響により大切な人を失ったり、経済的な問題を抱えた人は数えきれない。
健康で、食べるご飯があれば幸せだと思える一方で、人と会うことができないという一見シンプルな事が、どれだけ私たちの心身に影響を及ぼすかを実感している。もちろん社会的な距離以外にも、環境の変化や隔離による家庭内の問題も深刻だ。辛い時は誰かに電話やメッセージをしたり、特に用事がなくても互いの無事を確認しあえる友人を大切にしてほしい。また、日本ではまだあまり馴染みがないが、カウンセリングも積極的に取り入れるべきだ。

そして2つ目はパンデミックによる音楽の変化である。
友人と書いたが、彼らは音楽家、そして私が学んだ音楽院の先生でもあり、私とまったく同じ悩みをかかえていた。

人と一緒に演奏する喜び
私たち音楽家にとって、人前で、もしくは誰かと一緒に演奏ができなくなるということは考えてもいない出来事だった。
演奏ができなくなったことで収入がゼロになった人、所有している楽器を売りに出す人もいて心が痛む。
生涯演奏だけで生きてきたという有名なギタリストも、演奏の仕事を失ってからは機材を揃えてオンラインレッスンを開始した。
もちろん、仕事でなくても授業や友人同士の集まりなど、人が集まることができれば誰かと一緒に演奏することは可能だが、今はそれすらままならない。外出制限により音楽活動が制限されてから、励ましの意を込めて、それぞれが個人の自宅で録音したビデオ組み合わせて作ったリモート合奏ビデオが多く投稿されたが、これは代替え案にしか過ぎななかった。

友人の同僚がアメリカにあるマンハッタン音楽学校の修士課程に合格したそうだが、アメリカはブラジル人(正しくはブラジル居住者や滞在歴のある人)の入国を制限しているため、今年はオンラインで授業を受けることになった。理論の授業は比較的問題なく受けられるものの、室内楽(2人以上の合奏)の授業はオンライン上では不可能に近い。そこで、学校側から「自分の近くに住んでいる音楽家に協力してもらって室内楽曲を演奏し、そのビデオを提出するように」と指導されたそうだ。彼女はやっとの思いで同校に合格したにも関わらず、このままオンラインで授業を続けていくべきか悩んでいるそうだ。同じように、アメリカに入国できない中国やヨーロッパ在住の学生たちがいる。

オンラインレッスンへの課題
パンデミックは音楽家だけでなく、音楽を人生の糧としている全ての人に影響を与えていることも忘れてはならない。
私ともう一人の友人は、子供から大人を対象にしたレッスンを行っている。パンデミックが訪れてから、授業はオンラインに移行したのだが、そう簡単に切り替えできるものではない。

対面式とオンラインレッスンの違い.jpg

オンラインレッスンでできることは限られてくるが、こうして見るとできることは沢山ある。
楽器に触れたことはあるが、練習方法や理論に疑問がある人には比較的向いているだろう。移動をする必要がないので、遠く離れた地球の反対側の先生のレッスンを受けることだって可能だ。

レッスンの内容もはもちろんだが、本当に難しいのは生徒のモチベーションを維持するということである。誰かと演奏したり、人前で演奏できない今、練習をする気が失せてしまうことを、私たちが一番よくしっている。
特にパンデミックで慣れない生活をしている子供たちには、少しでも気分転換になればよい。
こんな時こそ、音楽を手放してほしくない。
オンラインレッスンは私達にとっても新たな挑戦であり、音楽の仕事を続ける一つの手段なのである。

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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