南米街角クラブ
間食も美食大国?小腹が空いたら屋台へ行こう
前回の投稿にて世界も認める美食大国ペルーについて書いたのだが、ペルーの人々の食に関する拘りは小腹が空いた時の間食一つにまで感じられる。(前回の投稿 World Voice 2020/10/08 『私の目から見た美食大国ペルー』)
ペルーでは日本と同じく1日に三度食事を摂るのが基本である。
朝食はアボカドや豚肉のサンドイッチやオートミール、トウモロコシ粉に肉やオリーブなどを入れバナナの皮で包んで調理したタマレス、具だくさんのスープなどバラエティー豊かだ。
殆どの人が昼食をメインにし、夕食は軽めに済ませることが多い。
大衆食堂で出される昼食(メヌー)はボリューム満点で、朝早くからよく働くペルー人は、午後も沢山働けるようにとしっかり食べるそうだ。確かに私の見ている限り、ペルーの人々は非常に働き者だという印象がある。元々スペインの植民地であるが、シエスタの習慣はない。
今日は主にリマの屋台にて食べられる、日本では見られない珍しいものを紹介したい。
リマには便利なコンビニエンスストアもあるが、屋台の食べ物は新鮮で価格も手ごろのため人気がある。
朝と夕刻にどこからともなく現れる移動式の屋台では、シンプルなサンドイッチをはじめ、カットフルーツやペルーならではの飲み物が楽しめる。
特にエモリエンテと呼ばれる薬草を使った飲み物は、見た目こそ苦そうに見えるが、ほんのり甘くトロミがあって、いかにも体に良さそうな味だ。その他にもマカやキヌアを使った栄養満点ドリンクや紫トウモロコシ、パッションフルーツのジュースなどその日の気分によって選ぶこともできる。屋台では頼めば無料でおかわりさせてくれることも多い。
エモリエンテをはじめ、薬草を使った飲み物は体調が優れない時にも飲まれる。腹痛、風邪のひき始め、生理痛など、症状別に特製ドリンクを作ってくれる所もある。
薬草は飲み物以外にも使われており、友人の祖父は大怪我をした際に調合されたペーストを全身に塗った所、翌日驚異的な回復を遂げたことがあるそうだ。
驚くことにセビーチェ(魚のマリネ)や茹でたうずらの卵も売られている。
屋台でなくても、小さなカートにポット入りのコーヒー、ホットチョコレートやケーキを積んで売り歩く人もいる。
至る所で間食にちょうど良いものを低価格で購入することができるが、無許可で販売している場合も多いので少し注意しなければならない。必要以上に神経質にならない方が良いが、道端で買ったエンパナーダ(具入りのパン)が腐っていたことがあったので、それ以降は馴染みの場所で購入するようにしている。
ペルーならではの食材を使った代表的な屋台料理といえば、ピカロネスが有名である。
これはカモテというさつまいもやカボチャの生地を油で揚げたもので、黒糖にシナモンやクローブを入れて煮詰めたチャンカカと呼ばれる蜜をかけて食べる。もちっとした食感だがふんわり軽く、あっという間に食べ終わってしまう。
私が特に気に入ったのは、キヌアとセイヨウカリンを甘く煮込んだキヌア・コン・メンブリージョだ。 間食だけでなく、朝食として飲まれることもある。
作り方はシンプルで、弱火で溶かした砂糖に水、パイナップルやリンゴの皮を入れて煮詰め、小さく切ったセイヨウカリンと調理してあるキヌアを加えて、片栗粉でとろみをつける。ペルーでは世界が"スーパーフード"に注目する前からキヌアが親しまれてきた。
ペルーは本当に食材に恵まれており、人々はそれを最大限に活かす方法を知っている。
今から何世紀も遡ったインカ帝国時代から食べられているルクマは、今日もペルーの人々に愛されている栄養価の高い果物の一つだ。
加糖してアイスクリームやケーキに加工したものを屋台や店舗で食べることができる。
それを知らずに、ヴィーガンの友人から手渡されそのまま食べてみたのだが、熟れた柿のような外観とは異なり、割ってみると中は黄色く、食感は蒸したかぼちゃのようにホクホクしている。
お世辞にも、このままでは美味しいとは言い難いが、肉を食べない彼にとっては貴重な栄養源のひとつだそうだ。
インカ帝国時代からの恵みの果物ルクマ(2020/01/17 Photo by Aika Shimada)
余談だが、殆どのペルー料理には肉や魚が使われている。
南米一の大都市であるブラジルのサンパウロでは、近年増加しているベジタリアンやヴィーガンに対応する選択肢が増えつつあるが、リマではそういったメニューを大衆食堂で探すのは難しい。
ベジタリアンの友人と食事をする際、彼女は肉抜きの料理を作ってもらえないか店側と交渉するのだが、「牛肉が食べられないなら鶏肉の料理がありますよ。」と返事が返ってくることが多い。どうやら"ベジタリアン"という言葉があまり定着していないようだ。(ベジタリアン専門の食堂は存在する)
屋台や個人経営の大衆食堂が多いリマだが、大型ショッピングモールを中心に大手外資系ファストフード店やコーヒーショップが多く見られるようになった。
ウェブサイトPerú Retailによると、リマではハンバーガーよりもフライドチキンを販売するチェーン店の方が多く、一食における平均的な利用額は25ソル、利用者は主に中産階級、更には学生に多いとのことだ。ミラフローレスやスルコなどの新市街に店舗が多い。
一番最初にペルーに上陸した外資系ファストフード店はケンタッキー・フライド・チキンで、1981年にオープンして以来、今でも根強い人気がる。鶏肉が多く消費されるリマで、ペルー人が好みそうなスパイスの効いた味付けが受け入れられたのかもしれない。
しかし、大衆食堂の昼食が8~10ソルと考えると、決して安価ではないこの国のファストフードは一種のブランドであり、元々の意味である"注文してから素早く食べられる料理"というよりは、ファッション感覚で食べるおしゃれな食べ物のような位置づけのようにも感じられる。ファストフード店側も、舌の肥えたペルー人たちが好みそうな独自のメニューの開発に力を入れているようだ。
参考:1ソル≒30円
【今日の1曲】
ペルーを代表する料理たちが歌詞に登場する曲。ペルー風ワルツ、マリネラ、クンビア、ワイノ(全てペルーで聴かれる音楽)と曲調が変わるのも面白い。
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada