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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

コロナ禍とリマ、透明ビニールカーテン越しに芋を買う

2020年8月24日リマ北部の市場(筆者撮影)

2020年3月15日午後8時過ぎ。
現地の友達から一つのリンクが送られてくる。
「わからないことがあったらいつでも連絡してね」とメッセージが添えられていた。
リンクをクリックするとペルーのビスカラ大統領の生放送会見に繋がった。
その時は誰もこの国家緊急事態が8月になる今でも続くとは思ってもいなかっただろう。

初投稿なので、私がどのような状況に置かれているか説明させてただきたい。
私は昨年末にブラジルサンパウロ州の音楽院を卒業し、同期のペルー人留学生が本帰国するタイミングに合わせて音楽プロジェクトを組み、本年1月から首都リマに短期滞在している。
この大統領会見の28時間後には国境が封鎖されてしまい、未だにブラジルに戻れない状態なのだ。
購入済みだった復路便はキャンセルされ、ブラジル政府が用意したチャーター機は搭乗希望者が多く、外国人である私のところまで回ってこない。
これも何かの縁だと思い、国際線の再開を待っている。

ビスカラ大統領の最初の国家緊急事態宣言時のCovid-19感染者数は71人。
以降、生活必需品を求める外出以外は自主隔離とし、午後8時から午前5時は一切外出禁止、食品を取り扱う店舗と薬局以外は営業停止。州をまたぐ移動も制限され、各地で帰宅困難になる人が続出した。
こちらで知り合ったペルー人の友達はクスコで足止めされてしまい、非合法で貨物用トラックに乗り込み、2ヶ月後にやっとリマへ戻ることができた。突然の出来事に一部の食料品や衛生用品が品切れとなることもあったが、私が見ている限りでは街の人たちは静かに指示に従っていた。
マスクの使用が義務付けられる前から率先して使用していたし、買い物の列も守り、少なくとも私が滞在している地区は落ち着いていた。

最初の2週間は、外出禁止となる午後8時にペルーの第二の国歌としても親しまれる『Contigo Perú』(和訳すると『ペルーと共に』)がどこからともなく流れてきた。『Contigo Perú』はVals Criolloと呼ばれるペルー風のワルツで書かれた生粋のペルー賛歌である。これをベランダから熱唱する人もおり、なんとなくだが、国が一丸となってウイルスと闘おうとしている感があった。
ビスカラ大統領もコロナ渦の最中に80%以上の支持率を得ている。早急な対応、経済的に困難な家庭への援助、違反者への取り締まり強化等が高く評価されているそうだ。性別ごとに外出可能な曜日を設け、トランスジェンダーの人は自身が思う性別の日に外出可能とされていた時期もあった。(これには抗議が多く、すぐに廃止される)

当初、爆発的な感染拡大は防げたものの、政府は感染源をつきとめようと南部の市場で従業員への抜き打ち検査を行った。なんと5人に1人の割合で陽性反応がみられたため、政府は市場の営業に厳しい条件を設けた。
市場というのは、リマの人たちにとって欠かせない場所である。入口を通過すると、八百屋、果物屋、魚屋、肉屋から床屋、仕立て屋、衣料品や文具を扱う小さな店が並び、ジューススタンドや食堂もある。
市場の中では何でも揃うし、何より良質な生鮮食品がスーパーマーケットよりも安価で購入することができるのがありがたい。
私は市場が大好きで、緊急事態宣言前は毎日通っていた。食堂のご飯は決してインスタ映えするような雰囲気はないが、家庭の味のようなぬくもりがある。

6月初旬、近所の市場が営業条件を満たしていないと摘発され、二週間の営業停止処分となってしまった。
当時スーパーマーケットは入場制限があり30~40分程列に並ばなければならず、何より物によっては2倍高くつく。不便になるなぁ...と思っていた矢先、市場周辺の衣料品店や飲食店が瞬く間に八百屋、果物屋に変わっていった。食品を取り扱う店舗は営業可能なため、営業できない店舗と市場の人たちが提携し始めたのである。市場の出入口付近で路上販売をする人も多くみられた。
ペルー人たちの素早い適応性にはいつも驚かされる。

二週間の営業停止処分が明けて、市場の各店舗は透明ビニールカーテンに覆われていた。
いつもなら自ら商品を手に取れるのだが、もちろんそれができない。店員さんに何を何グラムほしいと言う声が、マスクのせいもあり自然と大きくなる。
ペルーでは約3000種類の芋があると言われており、近所の市場に並ぶのは10種類程度だが、色や形も様々で見ているだけで楽しい。並べられた沢山の種類の芋や、見たこともないような果物を眺めるのが市場を歩く楽しみの一つでもあったため、ビニールカーテンはたとえ透明でも寂しくなった。それでも今は感染防止に努めなければならない。

それでもペルーの感染者数は増えていく一方だった。
経済的な理由もあってか外に出る人が増え始め、食品以外の路上販売や違法営業も目にするようになっていく。
そんな時、Twitterで「ペルーやエクアドルでは職場や公園などへのアクセスが激減したにもかかわらず、住宅街での外出が大きく増えた」という興味深いグラフを目にした。

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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