パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスの不妊症対応 20歳前後の不妊症検査と卵子保存キャンペーン
INSEE(Institute National de la statistique et des etudes economiques)(国立統計経済研究所)の人口統計報告書によると、2023年の出生数は70万人未満で減少率は 6.6%に達し、これは第二次世界大戦後の記録的な数字だと言われています。特に、ここ20年ほどは、この現象が顕著に表れ始めているようです。これまで、私は個人的には、フランスは高齢化は進んでいるけど、少子化問題はそれほど深刻ではないような印象があり、少子化問題が語られるたびに、日本の状況がまず例として挙げられているのを見るにつけ、「フランスはそこまでじゃないでしょ!」と甘く見ていました。
ところが、あらゆる分野、特に医療問題に関してなど、今の現役世代が引退してしまう年齢になると、医者の数が圧倒的に不足し、医療制度が支えられなくなる・・などという話は、断片的に聞いていたので、どうにも人口動態のバランスがこの出生率の低下により崩れているということからもこの問題は深刻な問題なのです。
これまでもフランスは特に子どもを持つことによっての税制優遇措置などがあるため、娘の世代などはやたらと3人兄弟姉妹が多い(3人目からは優遇措置がグンと有利になる)印象があり、これにより、一時はかなりこの出生数低下を食い止めてきたと思われるのですが、どうやらそれだけでは立ちいかなくなってきたということなのです。そして、これには、不妊症の問題が大きく関わっているということでもあるのです。
不妊症問題に大きな一歩
少子化問題を深刻にとらえているマクロン大統領は、「ダイナミックな出生率を生み出す能力は国の強さにかかっている」と発言し、これまである種の生命倫理の問題も関わってくることから「今世紀のタブー」とされてきた「不妊症」の問題について、「この惨事と闘うために大規模な計画を実施する」ことを発表しています。
キャリアを積みたい女性や子どもを持とうと思わない層が増加していることも原因のひとつではあり、「子どもを持ちたくない人に罪悪感を与えてはいけない」としながらも、「私たちの貧弱な社会構造が子どもを産むことを妨げてはならない」とし、子どもが欲しい人に手を差し延べる術のひとつとして、不妊症と闘うための計画を「予防」、「経路」、「研究」を中心に展開すると語っています。
フランスでも不妊症に悩むカップルは想像以上に多く、2022年にモンペリエ大学が発表した数字によると、330万人が不妊症に悩まされているといいます。同大学の研究によれば、フランス人の25歳のカップルの6組に1組は不妊症の問題を抱えているといい、過去数十年にわたって、男女ともに不妊症の割合は増加し続けていると報告しています。
これまで、あちこちでこの問題については、数々の議論が行われながらも、具体的に大きく前進する動きはなく、現在でも「医学的生殖補助医療(AMPあるいはMAP、PMA)」は、行われてきて、基本的に保険適用になっていますが、どうにもその治療にアクセスするまでに時間が、かなりかかったり、困難な問題が堆積しているようです。フランスでは1994年からこのAMPが合法化され、それなりの効果は出ているのですが、充分とは言い難いようです。
今回、マクロン大統領が提案している「不妊症問題」への対応は、政府がこの問題にしっかりと取り組み、まずは、現在は、このPMA(不妊治療)への待ち時間16ヶ月から24ヶ月と言われているアクセスをよりスムーズにするために、これまで病院施設のみが行っていた卵子の自己保存を民間にも開放するとしています。
また、画期的な試みとして、「20歳前後の全ての人を対象とした完全な不妊症検査」を保険適用で実施すること、また、「将来、子どもを持ちたい女性のために卵子の自己保存キャンペーン」を提案しています。出産には、年齢が大きく関わる問題でもあり、女性にはタイムリミットがあります。卵子も加齢によって質が衰えてくるために妊娠の可能性も下がるということから、不妊症の発見は早いに越したことはなく、将来の妊娠・出産に備えて若くて質のよい卵子を保存しておくというのは、合理的といえば、合理的な考え方かもしれませんが、実際には、20歳前後の年齢でそこまで具体的に妊娠・出産について認識し、具体的にそのようなことに踏み切るかどうかは疑問ではあります。しかし、少なくとも、その機会を国が与えてくれているなら、また、それが保険適用で金銭的負担がないとすれば、これは長い目で考えれば、やっておいて損はないと考える‥少なくとも考えてみるきっかけにはなるかもしれません。
また、少なくとも、この検査を行うことである程度のデータが収集できることになり、このデータは研究にも有効に活用できるようになると思われます。
考えてみれば、出生率の回復を考えるとき、これだけの人数にのぼる不妊症の問題が改善していけば、大きな一歩になるに違いありません。しかし、マクロン大統領は、代理出産に関しては、「これは女性の尊厳に反するものであり、女性の身体の商品化の形態」として反対の意を示しています。
育児休暇と出産休暇
不妊症の問題と同時に子どもを出産後の援助の一環として、これまでの育児休暇に代わる措置として、出産休暇を設け、母親に3ヶ月、父親に3ヶ月(子どもの成語1年間は累積される)を社会保障の上限(1900ユーロ(約32万円))まで給与の50%が補償(企業側がこれを補填することもできる)されるシステムを構築し、2025年8月には発効することを発表しています。これにより、これまでよりも社会保障の金額が大幅に増加し(現行429ユーロ)、はるかに高い報酬を受け取れることになるはずだとしています。
いずれにしても、人口動態のバランスを考えれば、少子化問題は、待ったなしの、少しでも早く対応していかなければならない問題で国がこのような具体的な政策として対応していかなければ太刀打ちできない問題でもあります。
不妊症問題を抱える人にとっては、この問題は本当に切実な問題に違いなく、この問題に積極的に政府が関わっていくことも大切なことであると思います。しかし、それとはまた別次元の問題で子どもを持とうと思わない・・子どもを持つことにあまり価値を見出せない若者たちも増えています。そんな若者たちに呼びかける言葉として、「あらゆる困難にもかかわらず、人生は美しいものです!楽観的に生きましょう!」、「La vie est belle !(人生は美しい)」と話している人がいて、「えっ?結局そこ? でもフランス人らしくていいな・・」と、ちょっとホッコリしたのですが、これは意外と芯をついているかもしれないと個人的には思うのです。人生にとって一番、大切なのは何なのか?ということです。
これを書いている途中に日本のニュースで「扶養控除を削減、あるいは撤廃することが審議されている」というニュースを目にしました。これでは、まるで少子化問題に逆行しているではないか?となんだか呆然としてしまいました。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR