パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランス社会を悩ませる未成年の超暴力事件
ここ数週間にわたり、フランスでは、毎週のように未成年の超暴力事件が起こり、社会問題として取り上げられています。この「超暴力」(ウルトラ バイオレンス)という呼び方をするのも、それが単なる暴力に留まらず、殺人事件にまで発展してしまうためであると思われます。
このところ、立て続けに起こっているのは、これが未成年でも14~15歳という年齢の「超暴力」で、路上でターゲットを待ち伏せして殴り殺してしまったり、ナイフで刺し殺してしまったりというもので、単に喧嘩がエスカレートしただけとも言い難いところで、ましてや、この年代の子どもがナイフなどの凶器を持っているというだけでも恐ろしい話でもあります。
ここ数週間の未成年の超暴力事件の概要
4月の半ばにグランド・シント(オー・ド・フランス地域圏)で起こった事件は、14歳と15歳の少年が路上で男性を待ち伏せして襲い、殴り殺してしまったという陰惨な事件でした。この少年たちは、「痛めつけるだけで、殺すつもりはなかった・・」と語っているようですが、結果的には殴り殺してしまったわけで、つまり、殺すまで殴り続けたわけで、その暴力性、残忍性がかえって浮き彫りになる感じもします。
また、そのニュースがおさまりきらないうちに、つい最近、シャトールー(フランス中央部・サントル・ヴァル・ド・ロワール地域圏)で起こった事件では、被害者、加害者ともに15歳の少年で、こちらは、加害者は、凶器を持って現場に臨んでおり、ナイフで被害者を数回、刺しており、一層、過激なものです。被害者の少年は、意識不明の状態で病院に運ばれたものの、その数時間後には死亡してしまいました。
この加害者の少年は、すでに以前にナイフによる恐喝、加重窃盗容疑で起訴中であったとのことですが、過去に有罪判決を受けたことはなかったために、名目上、司法の監督下におかれたものの自由の身であったということで、これは、現在の未成年に対する刑事司法上では、唯一の措置であったと言われています。
4月半ばの事件では、14~15歳の未成年の超暴力的な殺人事件として大々的に取り扱われ、フランス社会に大きな衝撃を与え、政府までもが、未成年、若年層の「超暴力化問題」に本格的に取り組む声明を発表して、協議がはじめられた矢先のことでした。それが、これでもかというほどに、次の同年代による超暴力殺人事件が起こってしまったのですから、これはもう火に油が注がれたような感じでもあります。
最初の事件後には、ベジエ市(フランス南西部・オクシタニー地域圏)やニース市などは、夏休み期間は13歳未満の未成年者は大人の付き添いなしには、夜間外出(23時~6時)を禁止する法令を発令しています。とはいえ、13歳未満の子どもが夏休みであろうといつであろうと23時以降に子どもだけで外出って・・ふつうなら考えられないのでは?と思ったりしましたが、実際にこのような法令が出されるということは、市が禁止しなければならないくらい珍しくない話なのかもしれません。
政府が提案している未成年の超暴力化対策措置
最初に大きく取り上げられた事件以来、政府は、この未成年の「超暴力化」を「非文明化」という言葉も使いながら、この全国展開になりつつある未成年の超暴力化対策を含む教育制度の見直しとして、地域社会、学校、あらゆる協会、保護者を巻き込んだ大々的な対応が求められるとし、学校を聖域化するための施策(制服制度の導入や教師が授業のために教室に入室した際には全員起立するなど、ややもすると日本の学校に似てくるの?と思われるような内容もある)や学校滞在時間の延長や保護者の責任、学校等の教育機関と保護者との間で緊密な契約の取り交わしや、それに従わなかった場合の本人はもちろん、保護者への制裁などを提案していました。現に2件目の事件では、加害者の少年とともに、事件への関与を問われ、その母親も同日に逮捕・拘留されています。
一般的なフランスの公立校は、生徒が学校を一歩出れば、もう学校が関与する問題ではないというのも珍しくはない話で、余談になりますが、以前の職場の近くで近所の中学生が暴れて、あまりに危険であったために学校に苦情を申し入れに行ったら、「学校外での生徒の振る舞いは、学校は一切関係ない」と言われたことがあります。
子どもに対しては、その取り決めに従わないことが度重なった場合には、成績への反映、悪い仲間から切り離し、再教育を行うための寄宿学校へ送致、保護者に対しては教育に関する特別講習を義務付けたり、刑事罰、罰金を設けるといった内容も協議されていました。
これらの政府の政策を聞いていると、娘の通っていた私立の学校(小・中・高校)は、かなり今回、政府が提案している条件に近い厳しい学校であったのだなと思わせられます。言葉遣いや教師への接し方、もちろん、日常生活の振る舞いは成績にも反映し、その日常生活の態度までが成績表の項目に挙げられており、それにいくつかの汚点が蓄積されると実際の成績も減点されるというようなシステムになっており、教師に注意されたりした場合は、教師をにらみ返したりすることさえも許されず、「目を伏せなさい!」と言われるなどという話を娘から聞いて驚いた覚えがありますが、実際にフランスのような社会では、この年代の子どもたちを教育していくためには、これくらい厳しくしなければならないのかもしれない・・と当時でさえ思った記憶があります。
もちろん、娘が通っていたのは私立の進学校だったために、そもそもがお行儀がよく教育熱心な家庭に育っている子どもが多く、成績に反映されるといえば、子どもも親も震え上がり、挙句の果てには、やんわりと転校を勧められ、転校を促されるわけで、結果的には、生活態度、成績ともに悪い生徒は言い方は悪いですが、排除されてしまうわけですから、公立校では、そのようなことは、難しいかもしれませんが、方向性としては、似ていると思います。
このような超暴力に走る子どもたちが、成績を減点されるくらいで、この凶行に歯止めがかかるかどうかは疑問でもあり、制裁はある程度は必要ではあるものの、根本的な解決にはならないのではないか?とも思います。
未成年の超暴力とSNSの関係
この未成年の超暴力化問題には、様々な原因が考えられますが、それに大きく関与しているのは、SNSの存在です。4月に取り上げられた大きな2つの事件に共通することは、この超暴力事件のツールとしてSNSが使用されていたことからも明らかになっています。最初の事件で大きく取り上げられたのは、もはや当局関係者の間では有名である「捕食者の巣窟」と言われる「coco.gg」と呼ばれるオンラインチャットサイトの存在です。
通称「ココランド」と呼ばれるこのサイトは、性別、年齢、ニックネーム、郵便番号を入力するだけで簡単に誰もが参加できてしまうチャットサイトで、誰もが簡単にアクセスでき、匿名性という気軽さもあいまって、フランスでは85万人のユーザーが存在すると言われています。ところがこのサイト、モデレーターや会話のセキュリティやコントロールが全くされていないもので、多くの犯罪にも利用されていることがいくつもの事件で発覚しており、これが一部では「捕食者の巣窟」と呼ばれる所以で、未成年者のみならず、小児犯罪から強姦事件、武器・麻薬密売の取り引きの場にもなっているようです。ただし、このサイトはフランス国外でホストされているために、フランス当局が必ずしも対処できないとも言われていますが、アクセスできなくすることは可能なのでは?とも思います。
もちろん、ごくごくふつうに楽しく「料理」や「旅行」、その他の楽しい会話を楽しんでいる人も大勢いるのでしょうが、このサイトには、臆面もなく、「女子高生」とか、「ふしだらな女」などの下品な項目も並んでおり、そのような界隈の人々のあいだではある意味、シンボル的な存在のサイトのようです。
今回の超暴力事件の加害者の少年がこのサイト上で仲間と待ち合わせをしたことを供述していますが、少なくとも未成熟な未成年アクセスを制限するなどの措置は必須なのではないか?と思います。
とはいえ、このようなネット上での取り締まりには限界があり、一見、無害に見える多くのゲームなどのチャット形式のツールを使えば、いくらでも存在し続けるものでもあり、いたちごっこになりかねません。
今やネットなし、携帯なしの生活は難しくなっているとはいうものの、そのために奪われている時間は、膨大なもので、直接、人と話したり、身体を動かすスポーツをしたり、色々なところへ行って自分の目で見たり、触れたりしながら過ごすことは大切なこと、時には喧嘩をしたって、どれだけ殴ったら、どんなことになるのか?そんなことにすごく鈍感になってしまっているのかもしれません。特に心身ともに成長期にある若年層には、他にやるべきことが、経験すべきことがたくさんあり、SNSの利用には、当然、少なくとも時間、内容とともに制限を設けるべきなのではないか?と思っています。
私などSNSのない時代に育っているので余計にそんなことを思うのかもしれませんが、便利ではあるものの、弊害もあり、上手な使い方をすることを意識的に考えなければならないのだと思います。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR