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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

パリオリンピックを控えてセーヌ川の安全性に赤信号 マクロン大統領は本当にセーヌ川で泳ぐのか?

景観としては美しいセーヌ川も泳ぐとなると二の足を踏むのがふつう・・  筆者撮影

パリオリンピック開催まで、あと約100日と迫った4月にNGOサーフライダー財団が、「オリンピックのいくつかの競技が行われる予定であるセーヌ川水域の安全性が憂慮すべき状態にある」ことを公表しています。

そもそもパリオリンピックの計画が発表された時点で「セーヌ川でトライアスロン!」と聞いて、少なからずギョッとしたものですが、まあ当分先のことでもあり、「それまでにはセーヌ川もきれいにするのだろう・・」と思っていました。パリの美しい景観には欠かせないセーヌ川ではありますが、それは街全体と融合しての景観としての美しさであり、その水自体が泳ぐに適しているか? というのは別問題です。

国際水泳連盟の基準値を上回る細菌の存在

今回NGOが発表した水質調査は、2023年9月から2024年3月までの6ヶ月間行われたもので、パリオリンピックのトライアスロン、パラトライアスロンの競技が行われる予定であるアルマ橋とアレキサンドル3世橋でサンプルが採取されています。この調査報告によれば、採取された14個のサンプルのうち、13個に特定の細菌、特に大腸菌や腸球菌が国際水泳連盟が定めた基準を超えるレベルで存在していることが明らかにされています。NGOキャンペーンコーディネーターは、この数値に関して、「アスリートの健康的な練習に対する最低限の義務基準の2~3倍を上回っており、胃腸炎、結膜炎、中耳炎、皮膚疾患に影響を及ぼしかねない深刻な状況である」と警告しています。

欧州水泳連盟および国際トライアスロン連盟の基準では、糞便汚染を示す2つの細菌(大腸菌と腸球菌)の濃度が100mlあたり1,000 cfu* を超えてはならず、腸球菌に関しては 400 cfu/ 100ml 以内と定められており、これを超えると水泳には適さないとされています。ところが、今回の調査(NGOを含むオードパリ研究所の調査)によれば、セーヌ川では大腸菌の濃度が定期的に 2,000 cfu /100ml(最大 7,250cfu 2月7日アルマ橋)を超え、腸球菌の濃度が 500 cfu /100ml(最大 1,190 cfu)であったことが公表されています。
*cfuは増殖可能な微生物細胞の数を示す単位

この発表を受けて、「主催者は残念ながら、おそらく、希望する場所でイベントを実施するのは不可能になることを受け入れなければならない、その場合のプランBを用意する必要がある」と関係者の一部の人々は訴えています。

楽観的なパリ市とマクロン大統領のセーヌ川で泳ぎます!宣言

これに対して、パリ市の反応は、あくまで楽観的なもので、オリンピック担当の副市長は、「全く心配していない。夏のオリンピックには、必ず水質は改善される」と答えています。今回公表された水質調査の結果について、水質が分析された期間は、今回のオリンピックが開催されている夏の期間が含まれていないとし、「強い日差し、少ない降水量、長い日照時間、少ない川の流れ」という冬の期間にはない夏の期間とは異なるものであると説明しています。またイル・ド・フランス(パリ近郊地域)では、これから4月~5月の2ヶ月間で「雨天時の衛生網の運営を改善する水泳計画の構築作業が始動する」と浄水場の消毒装置を稼働させることを約束しています。

水中の特定の細菌(バクテリア)は、例えば大雨のあとの衛生ネットワークの飽和による汚染物質の排出(廃水、農業または都市排水など)から発生します。街路の洪水を防ぐために、街路に溢れた水はセーヌ川に流れ込みます。このために、5万㎥の容量を備えた貯水池がオーステルリッツ付近に建設され、余剰分は貯水池に保管して浄化されることになっています。

たしかに、水中のバクテリアの分解の一部は太陽からの紫外線によるもので気候が水質に影響を及ぼすことは事実ですが、特に近年の異常気象は、例年のものから変化しており、今年のパリは年明けからも天候が悪く、雨が一段と多いのです。以前は、フランス人が少しの雨では傘をささないのは、雨というものは、一瞬、降ることがあっても、少し雨宿りしていれば、じきに止むものであったからなのですが、ここのところ、一日中雨・・という日も少なくなくなりました。

セーヌ川に関しては、廃水だけでなく、排水問題も長いこと解決されない問題で、大雨が降るとすぐにセーヌ川の水位が上昇し、橋の下を通る船(バトームーシュなどの遊覧船など)が橋の下を通れなくなって欠航するということも珍しくはありません。

この水質調査の結果が発表される2ヶ月ほど前に開催されたパリオリンピック選手村の落成式に参加したマクロン大統領は、このセーヌ川の安全性についての質問に対して、日付の特定なしに「セーヌ川の水質は問題ないことを証明するためにセーヌ川に泳ぎに行く!」と発言したことが話題になりました。そして、今回、再びこのセーヌ川の水質の安全性に警告が放たれた現在もなお、「考えは変わっていない(セーヌ川で泳ぐということ)」と回答し、「セーヌ川とマルヌ川はこの大会の最大の遺産のひとつになるだろう」と述べています。

実際にフランスは、セーヌ川とマルヌ川に投棄されるものを減らし、下水処理施設や濾過施設に10億ユーロ以上の公金を費やしています。

newsweekjp_20240415152558.jpgRATP(パリ交通公団)のマークに使われているこの円の中の一見、意味不明な線はセーヌ川を表している  筆者撮影

パリを横断するセーヌ川は街の中心部を少し歩けばすぐにセーヌ川に行きあたるようなパリの景観には欠かせない美しい川です。しかし、私も数日前に近くを歩いて、あらためてセーヌ川の水をのぞき込んでみましたが、つくぐく、「ここで泳ぐって、やっぱり、なかなか勇気がいることだな・・」と思わずにはいられませんでした。

これからの数ヶ月間でどこまで水質を改善できるかはわかりませんが、とりあえずはオリンピックの前に行われるマクロン大統領のセーヌ川での水泳大会を私はちょっと楽しみにしています。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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