パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
パリ市長を悩ませる2024年パリオリンピック オーバーツーリズム問題
ここ数年、パリ市は2024年に開催されるパリオリンピックのために、あっちもこっちも工事で、特にあと1年を切ってから、メトロの駅など夏休みの間などは長期間にわたり、全線閉鎖して工事をしているラインもありましたし、その後のバカンス期間には再び閉鎖して工事を続け、一体、この間際まで、どうして工事が終わっていないのだろうか?と思うほどに、あちこちが絶賛工事中。オリンピックそのものは、前乗りで準備のために来仏される方々のことを考えれば、もう半年もない状態なのに、一体、どうするんだろうか?と思っていたら、パリ市長が「現状の進捗状況を考えるとオリンピックまでに全ての公共交通機関の整備は間に合いそうにない・・」などと言い出し、物議を醸しています。
通常規模では考えられないオリンピック時のオーバーツーリズム
そもそもパリはそのイメージとはうらはらに小さな街で、あらためて考えてみると、多くのメトロの駅などは、東京などと比べると、かなりコンパクトにできているものが多いです。いくつもの路線が交差するような大きな駅ならば話は別ですが、一般的な駅はかなりコンパクトでメトロに降りていく階段なども小さいものが多いのです。そんな小さな階段に大勢の人が押し寄せたらどういうことになるか?たとえ、駅や路線が整備されたとしても、この入り口の小ささ、またその狭い駅でチケットを購入するための人が溜まっていったら、どうなるのか?などなど、問題はそんなに簡単ではありません。
通常、パリのメトロの駅のホームなどには、基本、駅員はおらず、また路線によっては、線路とホームの間に何のバリアもない駅が多く、たびたび、線路への落下事故や車両のドアに人が挟まったまま出発してしまい、乗客が電車に引きずられての死亡事故など、日本では考えられないような安全管理体制なのです。
オリンピック時には、1,500万人の人出が見込まれているそうですが、通常時、パリの人口は210万人ほどと言われているので、単純に計算するとオリンピック時には7倍以上に膨れ上がるわけですから、それはもう、生半可な対応では、収拾がつかなくなるのは必須です。
日本でも京都などでのオーバーツーリズム問題が取り沙汰されているようで、参考になるかとも思いきや、混雑問題(公共交通機関や飲食店、街のトイレなどなど)、観光客のマナー、文化財・遺跡などの損傷、違法民泊の増加、景観の悪化など、どれをとっても、それをパリに置き換えて考えてみた場合、それは京都の比ではない事態が容易に想像がつきます。
特に公共交通機関などに関しては、そもそもが車両自体が大勢が効率よく乗れるような作りではなく、また、日本人のようにラッシュアワーの混雑に慣れてはいないために、後に乗る人のために詰めて乗るということができない人たちなので、日常から、混んだバスがやってきたりしても、すでに乗っている人がもう少し、奥に詰めてくれれば乗れるのに・・と思うことも多々あります。
オリンピック時には、各交通機関は増便されるという話ではありますが、そもそも、すでに3分に1本くらいの割合で動いているメトロなどは、これ以上増便されたとて、今度は、そのタイムテーブルが上手く機能するかどうかが大いに疑問でもありますし、増便された電車が少しでも時間がズレた場合は、システムダウンなども予想され、駅には、どんどん人が溜まっていくことになります。通常、パリのメトロに乗り慣れていない観光客が大多数の場合は、この路線が止まったら、別の路線を使って移動する等の流れがスムーズにはいかないことが予想され、また、そういう時に親切にアナウンスしてくれるようなこともないため、大パニックになる恐れもあります。また、パリのメトロにはよくある不審物発見のための避難命令なども、決して少なくないわけで、そのために、長時間、交通がストップしたりすることも充分に考えられます。
また、バスなどの公共交通機関の場合、街中は大変な警戒体制が敷かれることが予想され、通行止めになる地域も考えられるために、大渋滞になることも大いにあり得ることです。
先日、行われていたラグビーのワールドカップの際でさえ、オリンピック時には、いくつかの競技が行われると言われているコンコルド広場には、ラグビーヴィラージュなるものが設けられていて、周囲はかなりの範囲が通行止めになっていたので、徒歩でさえも、大幅に迂回しなければならなかったり、周辺のメトロの駅は閉鎖されたりしていたので、これはオリンピックの時には、大変なことになるだろうと思いました。
また、宿泊施設の問題も、オリンピックまであと1年を切った時点で、パリのホテルは、すでに予約でいっぱいで、今年8月の段階で、その価格の高騰ぶりが酷いと話題になっていました。ル・パリジャン紙の報道によれば、12ヶ所のホテルを8月5日〜6日分の予約料金を2023年と2024年で比較してみた結果、その価格は、平均6倍以上になっているそうで、酷いところだと、パリ15区のホテルで今年の夏は一泊90ユーロ程度であったものが、来年には、一泊1,363ユーロになっているところまであるそうです。
パンデミック以降、ついぞ、満室という状況には、お目にかかったことがない我が家の近所のホテルなども、この調子だと、間違いなく全室満室になること間違いなしで、今からこのホテル全室にパンパンに人が埋まった場合を考えると、近くのバス停からバスに乗ることなど、おそらく不可能ではないか?と想像するだけでもウンザリしています。
オリンピック期間中はメトロのチケットが倍に跳ね上がる!
こうして、通常以上に交通網が大きく麻痺しそうな状況下で、イル・ド・フランス・モビリテス(パリ及びパリ周辺の交通統制局)がオリンピック期間中(2024年7月20日から9月8日まで)のメトロのチケットの大幅値上げを発表。現在1回分 2.1ユーロのチケットが4ユーロとなり、1週間分のチケットが現行30ユーロから70ユーロに値上がりになるようです。これには、大反発が必須!と思いきや、月額や年額のパス(Navigo)には、該当しないということで、一般的に考えれば、住民への影響は少ないとも考えられ、また、7月20日前までにNavigo Easyパスにチャージすれば、この値上げ料金を回避することができるとも伝えられています。
Comment la RATP et la SNCF vont se réorganiser pour acheminer les 10 millions de spectateurs attendus l'été prochain pour les Jeux Olympiques ? Le passe transports coûtera 70 euros la semaine, le ticket de métro à l'unité atteindra 4 euros. https://t.co/ulyK9IQgab↓
-- Le Figaro (@Le_Figaro) November 28, 2023
このメトロの料金の値上げについては、オリンピック期間中のバス、メトロ、国鉄などの増便のために通常の運転資金の15%増、2億ユーロの追加資金が必要になる補填資金のためと説明されています。
しかし、このえげつない値上げは、一応、住民への配慮も感じられるとはいえ、反発がないはずはありません。
しかし、この時期、通常ならば、パリの住民はバカンスにでかけてパリはガラガラになる季節でもあり、オリンピックのためにバカンスに行くのを諦めて、パリに留まる人が大勢いるとは考えづらい気もします。同時にこのRATP(パリ交通公団)やSNCF(フランス国鉄)の職員は、例年ならば、大勢がバカンスに出かけるために、特にパリ市内などは通常は減便されるところを増便するということは、当然、彼らは夏のバカンスがとれないということで、これに対する一悶着は起こりそうな気もします。
また、これを機に稼いでやろうと考える人も多くいる反面、そんなことはおかまいなしに比較的自由にバカンスを取れるタクシーの運転手などは、涼しい顔をして、「オリンピック中の渋滞は関係ないよ!だって、バカンスでいないから・・」などと言っている人もいるので、車の手配などは、想像以上に大変なことになるかもしれません。
地元の新聞は、「この夏のパリオリンピックに関して、たったひとつ言える確なことは、1,500万人の観客および観光客には、忍耐が必要だということだ!」などと皮肉めいたことを書いています。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR