パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
度を越えている暴動と信じられないほどの穏やかさが共存しているフランス
前回、書かせていただいた検問拒否で警察官が未成年を射殺した事件によるフランスの暴動は、正直なところ、2~3日もすれば、次第におさまるものと思っていました。ところが、この暴動は、想像を遥かに上回るエスカレートぶりで、手が付けられない状態へと発展し、その狂暴さにフランスの社会全体を震え上がらせています。
多くのジャーナリスト、警察、犯罪専門家などが口をそろえて顔をしかめて言います。「こんなことは、初めて・・」と。
当初は警察への抗議行動と思われていたこの暴動は、あっという間にフランス全土に飛び火し、事件の起こったナンテールやパリ近郊だけにはとどまらず、あっという間に、マルセイユ、リヨン、ストラスブール、ニースなどなど被害を受けている場所は数えきれず、ゴミ箱や車を燃やすだけでは飽き足らず、バスやトラムに火をつけ、一般の商店なども、お店を破壊し、商品を略奪し、挙句の果てには火を放つという、地域によっては、コマーシャルセンターをまるまる全焼させてしまったりする残虐的な行為にまで及び、現在は、フランス全土にわたり、バスやトラムは21時以降は運行停止、地域によっては、夜間外出禁止、まさかのロックダウン状態になっています。
私自身も先週、ソルド期間が始まったばかりということもあり、昼間だし、メトロやバスのある時間までに帰れば大丈夫だろうと、パリ近郊のコマーシャルセンターに買い物に出かけたら、夕方の時間帯ではあったものの、暴徒たちが押し寄せてきて、突然、お店のシャッターが閉まり、店内に閉じ込められ、店内が大パニックになるという場面に遭遇し、挙句の果てには近くのメトロの駅まで閉鎖されて、延々と次の駅まで歩いて帰るという大変な目にも遭いました。
ここ数日は毎日、警察官、憲兵隊が4万5千人動員され、普通は出動することのないRAID(Recherche Assistance Inteervention)やGIGN(Groupe d'Invention de la Gendarmerie Nationale)などの特殊部隊までが出動し、ヘリコプターまで飛ばして、警戒にあたるという厳戒態勢を敷いています。
彼らの暴動のツールになっているSnapchatやTikTokなどのSNS
ここまでくると、もう当初の事件はただのきっかけにすぎず、もうただの破壊行為、略奪行為です。事件が起こって以来、燃やされた車両、建物は数知れず、被害は未だ、おさまってはいません。先週は、この暴動により、毎日、900人から1,300人の逮捕者が出ており、逮捕者の平均年齢は17歳と言われ、中には12歳~14歳の少年少女も混ざっているということで、圧倒的に年齢層が低く、いつもの?フランスの暴動とは、また少し違うところがあります。
そもそも、警察官による少年の射殺事件の真相が明らかになったのもSNSによる事件現場の映像の拡散によるものではありましたが、今回の暴動がこれだけの規模に拡大してしまったのもやはり、SNSだと言われています。
彼らは、Snapchat(スナップチャット)やTikTokなどの機能を巧に使いこなし、暴動の人集めの呼びかけとして利用するだけでなく、破壊行為、略奪行為などをライブで、また録画動画を公開することで、それを模倣しあい、競いあうという最悪の連鎖になっています。不謹慎ではありますが、日本のネットでのスシロー事件とはケタ違いの狂暴さで、彼らが拡散している動画などを見ると、「殺せ!殺せ!燃やせ!燃やせ!」などと、大声で笑いながら暴れているので、もう言葉もありません。
例えば、Snapchatでは、Snapmapという機能により、現在、起こっていること、公開されているコンテンツ数に応じて、赤い点で「ホットスポット」が表示されるようになっており、その赤いポイントをタップすると、そこで起こっていることが見られるようにできています。もうこうなってくると、臨場感あふれるゲームのようで、暴れたい若者たちが吸い寄せられるように集まってくるのです。また、これらの機能を駆使することで、警察の警備体制の有無を連絡をとりあったりすることもできてしまい、それが今回の暴動を手の付けられないものにしています。しかも、未成年というのに、事件を起こすのが、深夜の2時~3時ということも稀ではありません。
このSnapchatとTikTokは、多くのメディアなども新しいニュースの映像収集などにも利用しているもので、通常ならば、必ずしも悪用されるばかりではないものの、今回ばかりは、フランス政府もこの運用会社に対して、「危険なコンテンツ」を削除するように呼び掛け、「責任の精神を期待する」と要請を出しています。これらの会社はフランスにとっては外国企業、フランス政府として強制措置をとることはできないものの、今回の事態を重く見たこれらの運営会社は、「フランス当局と連携をとりながら、特別監視部隊を設置し、この種のコンテンツは削除し、適切な措置を講じる」と発表しています。しかし、現在のところは、あまりに対象となるものが多すぎて、一つ一つのコンテンツを公開した者を完全に追跡するのは、非常に困難な事態です。
今回の暴動に重要な役割を果たしてしまっていると思われるSNSのサービスに関して、フランスのデジタル移行省は、問題を引き起こすプラットフォームを制裁するための法的手段を強化することを提案、フランス議会もTikTok, Snapchat, Instagramなどのプラットフォームに対し、ユーザーの年齢確認と15歳未満の場合の保護者の同意を義務付けることを可決しています。
暴動は別次元へ 社会への怒りに向かっている
もうここまでくると、警察官の射殺事件は、ただのきっかけに過ぎず、彼らの怒りの矛先はフランス社会に向かっていることが、標的が少しずつ変化しつつあることでわかります。むしろ、この暴動のきっかけとなった事件の遺族たちは、「もうやめて!こんな破壊行為、略奪行為は被害者である息子(孫)を卑しめることになってしまう!お願いだから、もうやめてほしい!」と訴えているにも関わらず、勢いづいている彼らの暴動はとどまるところを知らず、一層、残虐なものになりつつあります。
ここ数日では、いくつかの市町村の市長が襲撃を受け、有刺鉄線が張られている市庁舎もあります。市庁舎が襲撃不可能と見たのか?夜中に市長の個人宅に押し入り、家族が怪我を負いながら、家から脱出、その後、家に火をつけられ自宅が全焼するという事件まで起こりました。彼らの怒りは警察だけではなく、社会へ向いているのです。
こうなってくると、移民問題と結びつける人もいるようですが、彼らの多くは移民の2世、3世で、彼ら自身はフランスで生まれ、フランスで教育を受けているフランス人です。しかし、日頃から社会から虐げられていると感じている彼らはここぞとばかりにフラストレーションを爆発させているのです。彼らは、できればつかまりたくないと思ってはいるものの、警察を恐れることはなく、逆に警察車両と見れば、それをめがけて襲撃しようとするような者もいて、また捕まったところで、未成年ということで、警察のリストに名前が載るくらいのことで、すぐに帰されることを知っているし、前科がついたところで、今さら何とも思わない、失うものなど何もない・・と思っているようなところがあります。この若い子供たちが、この時点で失うものなど何もないと思ってしまうところが、哀しい現実でもあり、フランス社会の問題でもあります。
しかしながら、個人的には、自分たちの状況を社会のせいだけにするのは、間違っている、まずは親の教育、愛情のような気もします。
結局のところ、フランスの格差社会、分断された社会の膿が出ているような感じで、非常に根深い問題でもあります。テレビなどで流れてくるのは、陰惨な場面ばかりで、家でそんな映像を見ていると、鬱々としてくるので、パリの街を歩いてみると、パリの中心部は、一時、シャトレのNIKEのショップなどが破壊され、強奪行為にあったということもありましたが、街中は、気候が良いこともあって、たくさんの人で賑わって、平和そのもので、それが逆に、この社会が分断されているということなのだろうか?と思ってしまったりもします。
多くの商店は、夕方になると、襲撃を恐れてお店にバリケードを張って、早々に店じまいをしたり、銀行のキャッシュディスペンサーなども閉鎖されていたりもしますが、それ以外は華やかで美しいパリの光景を見ていると、今、夜中に起こっている暴動が信じられないほど穏やかで平和です。シャンゼリゼやヴァンドーム広場などは、いつもどおりの圧巻の美しさ。ヴァンドーム広場のルイヴィトンのお店などは、ショーウィンドーにバリケードが張られたりしていましたが、それでさえ、一般の商店がべニア板などで、応急処置で張っているバリアとは違って、妙に洗練されていて、さすがにバリケードすら違うな・・などと妙に感心してしまいます。
今回の暴動で、フランス中が暴動により、滅茶苦茶に破壊されている印象を持たれる方も多いようで、一時はどうなることかと思ったことも事実ではありますが、状況は日々、変化しており、ネット上では、フランスでは戒厳令が敷かれているとか、マクロン大統領が緊急事態宣言を検討しているなどのデマも流れていますが、パリの中心部に関して言えば、いつもよりは緊張感はあるとはいえ、ここ1日~2日は、若干、暴動の方向性も変化しつつあり、地域にもよりますが、特にパリの中心部に関して言えば、この暴動が起こっている現実をよそに、信じられないほど穏やかで平和です。
結局のところ、この両極が同時に存在していることが、逆に言えば、フランスの闇の一つでもあるのですが、フランス全体が被害を被ってはいないのは、現段階では救いでもあります。
とはいえ、今回の被害は甚大なもので、今後もなにかあるたびにこんな暴動を起こされることが常態化しないためにも、きっちりカタをつけてもらわなければなりません。来年にはオリンピックも控えているのですから・・。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR