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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

山積みのゴミが燃える! 何がフランスに火をつけたのか?

美しいパリが一日も早く戻ってきますように・・・  筆者撮影

フランスは年金改革問題で年明けからデモやストライキが途絶えることはありませんでした。その時によりテーマは違えど、ほぼ毎週土曜日には、どこかで必ずデモをやっている感じで、日常的にもデモやストライキはめずらしくないフランスではありますが、今回は最初から、ちょっと根強い感じがしていました。SNCF(フランス国鉄)やRATP(パリ交通公団)などをはじめとして、学校、ガソリンスタンドなど、これまでもずいぶんとストライキには、憤懣としていましたが、今回のストライキで最も問題にもなり、話題にもなったのは、ゴミ収集業者のストライキでした。

これまで、あたりまえのように処理されてきたゴミがパリの街のあちこちに山積みになり、毎日毎日、ゴミの山は高くなって、とうとうパリの街に積みあがっているゴミは1万トンにも及ぶと言われていました。

憲法49.3条発令後、荒れ狂う国民 パリが燃える!

このパリの街に積み上げられたゴミにネズミなどがたかり、衛生問題にも及ぶという話になり、政府はパリ市に対して、強制的にゴミ収集業者に任務に戻るように勧告するように促したものの、パリ市長は「市長にはストライキを止める権利はない」とこれを拒否、ゴミの山は撤収されることはありませんでした。ゴミの山だけでも不衛生かつ、その汚臭だけでもそうとうな被害、それに伴い、近隣の飲食店などの営業妨害で大変なことでした。しかし、今になってみれば、それだけで済んでいるうちは、まだマシだったのです。

今回の年金改革問題のデモは、それでも、ある時までは多少の喧騒?はあっても、そこまで暴力的なことには発展しない状態が長く続いていました・・ボルヌ首相が憲法49.3条を発令し、年金改革問題を採決なしに強行突破するまでは・・。

憲法49.3条は、「首相の責任のもと、閣僚理事会の審議の後、財務または社会保障資金調達法案の投票に関する国会の前に政府の責任を負うことができる」(議会で採決をとらずに法案を採択する)というもので、今回は、これを該当させることができると政府が判断し、ボルヌ首相が議会でこれを宣言したことで、今回の年金改革問題への抗議デモが一気に勢いを増し、手が付けられないほどの国民の怒りを買ったのです。

この49.3条発令の瞬間から、議会では、議員たちがマルセイエイズ(フランス国歌)を歌って、首相の発言をかき消し、それに負けじとがなり立てるように話し続けるボルヌ首相の姿は、鬼気迫るものがありました。そもそも、議会で正式に採択してこの法案を通す見込みがあれば、このような強行突破は必要ではなかったものの、採決をとった結果、否決されるリスクを避けて政府はこの49.3条を適用するという禁じ手を使ったのです。しかし、結果として、この発令は政府が地雷を踏んでしまったカタチとなりました。

この49.3条発令後、まもなく、パリのコンコルド広場には、続々と国民が集まりはじめ、炎と煙が立ち上り、群衆と警察、憲兵隊との鬩ぎあいが始まり、近隣のメトロの駅などが閉鎖される事態となりました。昨年末に、サッカーのワールドカップで惜しくも決勝には敗れたフランスチームが凱旋した際に、選手たちの活躍を讃えるために歴史的な人数の群衆が集まり歓喜に沸いていたコンコルド広場が今回は怒り狂った人々で埋め尽くされたのです。喜ぶにしても、怒るにしてもフランス人は激しいのです。

フランスは主張する権利を尊ぶ文化で、デモやストライキの権利はとても尊重されていますが、これは、あくまでも事前に許可を申請した場合とされていて、今回のように突発的なデモは認められていることではありません。しかし、今回、政府が踏んでしまった地雷はそんなデモの許可云々で収まるような生易しいものではありませんでした。

初日(49.3条発令)のコンコルド広場での群衆は数時間で解散させられたものの、おさまりのつかない国民の一部は、パリの街中に分散して、山積みになっているゴミに火をつけ始めたのです。これにはネズミもビックリです。

火に油を注いだマクロン大統領のインタビュー

その後、1週間にわたって、この国民の無許可のデモは、日々、暴力的な要素を増し、毎晩パリだけでも2000人の警察官・憲兵隊が出動する大惨事へと発展していきました。折りしも、CGT(全国組合連合)が正式にデモの申請をしていた前日に、これまで首相のみが前面に立ち、公には口を塞いでいたマクロン大統領がテレビのニュース番組に生出演でインタビューに答えるという番組が放送され、注目を集めていました。しかし、この番組、インタビュー形式をとりつつも、大統領がジャーナリストをエリゼ宮に招くという、どうにも主導権は政府にあると言わんばかりの設定のうえ、時間帯もとうてい一般市民が視聴しにくい午後13時からという妙な時間帯での放送というだけでも、どこか腑に落ちないものを感じていました。

35分間のこのインタビューは、インタビューというよりは、マクロン大統領が言いたいことだけを言う・・しかも、荒れ狂っている国民をよそに、「この年金改革法案は政府が数か月にわたる協議を経て作成したもので、絶対的に必要なものであり、我々は民主主義の道を突き進むのみであり、年金改革に反対する群衆は、選挙で選ばれた役人を通じて主権を表明する人々の前では正当性がない」というもので、インタビュアーの質問を遮るように、話し続ける様子は、途中で聞いているのが苦痛になってくる感じでした。今回の騒動を大きくしてしまったのは、法律であろうとなかろうと、49.3条のような禁じ手を使って政府が行おうとしている強行なやり方に対しての抗議が大きいことをマクロン大統領はわかっていないのか?これだけ騒いでもなく、正当性云々とごり押しを続けようとするのはどう考えても賢明なやり方とは思えないのです。

おそらく、マクロン大統領のこのインタビューは翌日予定されているデモ・ストライキの緩和手段として用意されたものであったにもかかわらず、このインタビューはその日、一日中、繰り返し、一言一句が検討されながら、国民の怒りをウォーミングアップさせるようになった感じで、まさに火に油を注いでしまったカタチになりました。フランス国民でもない私が憤慨するような内容のマクロン大統領の発言、これは翌日は大変なことになる・・と思いました。

そして、残念ながら、その予感は的中し、パリだけでなく、フランス全土にわたり、もはやデモというよりも暴動という騒ぎになりました。もはやゴミの山に火をつけるだけでは飽き足らなくなった国民の一部は、暴動に乗じて登場するブラックブロックなる集団までが加わり、一段と積みあがっているゴミの山につけられた火は近隣住民のアパートにまで引火したり、キオスクを焼いたり、ショーウィンドーを割り、バイクや車を焼き、陰惨な状況になりました。無許可のデモには、警察も警備をしきれずに、事態は収拾つかない状態になったのです。もはや、黄色いベスト運動の際に出動した際のBravMという黒い制服と防弾ベストを着用したバイクで移動する特殊部隊やCRS機動性憲兵部隊(街頭での暴動、破壊行為に介入する特殊部隊)が再び出動して、今度は逆に彼らの暴力的な虐待行為が非難されるという、もうどっちがどっちだかわけがわからない完全な混乱状態になっています。

延期された英チャールズ国王のフランス公式訪問

今回の大惨事の中には、ボルドー市庁舎の大扉に火がつけられ、高々と炎が立ち上る象徴的な出来事もありました。折りしも3月26日から29日は、英チャールズ国王のフランス公式訪問の予定が入っていて、その中にボルドーが訪問地の一つとされていました。今回のチャールズ国王のフランス公式訪問には、ブレグジット後のイギリスとフランスの友好的な関係の象徴的な行事として計画されていたもので、本来ならば祝賀的なムードで迎えられるはずのものでもありました。しかし、現在のフランスには、祝賀的なムードのかけらもありません。

また、CGTが発表している次回のデモはこれに的を当てたかのごとく、ちょうどチャールズ国王のフランス滞在予定期間内の28日に予定されています。当初は問題ないとしていたフランス政府も結局、チャールズ国王との電話会談でマクロン大統領が政情不安のために延期を申し出たということで、延期されることになりました。警備上も問題があるであろうし、万が一、何かが起こってしまえば取り返しのつかない大問題に発展してしまいます。とはいえ、イギリス国王の約束を反故にしたのですから、これは大変、失礼なことに違いなく、反マクロンの面々は声高に「フランスの恥!」と攻め立て、実際にマクロン大統領にとっても屈辱的なことであったに違いありません。

暴力行為の常態化とエスカレート

大騒動のあった翌日のパリの街は片付けきれないゴミが荒れ放題で、焼けただれたゴミ箱が転がり、ゴミだけではないプラスチックなどの焼けた異臭が立ち込めるパリは、ほんとうに悲しい景色でした。焼かれたキオスクの家主?が呆然と無表情で中を片付けている姿には言葉もありませんでした。特に被害の激しかったオペラ界隈など、特にアパートまで引火した通りなどは、廃墟のようで、またオペラ通りなどもショーウィンドーを割られたお店がたくさんで、そのために営業できないお店もあり、また、新たにおこるかもしれないデモのためにバリケードをはっているお店や銀行、銀行などもキャッシュディスペンサーを閉鎖してカバーしているところもありました。

今回のフランスのこの大惨事にツイッターなどでも、多くの投稿が見られますが、その中で、パリが燃える映像をつけて、日本人で「これがフランスで民主主義が実践されている映像である!日本人も声を上げよ!」というようなツイートを見かけましたが、これは断じて違います。抗議の声をあげるということは民主主義であっても、これは暴力・破壊行為であり、民主主義ではありません。

しかし、このような暴力行為は破壊行動をとる者にとっては、慣れてしまう一面もあり、それが常態化し、エスカレートしていってしまう恐ろしい傾向にあるのも事実のようです。この年金改革問題とは別にフランス西部のドゥー・セーブル県サント・ソリーヌで、貯水池建設への反対運動に環境活動家が中心となって、フランスだけでなく近隣の欧州の国々からも25,000人が集結し、ロケット花火砲や火炎瓶などを使って治安維持部隊を攻撃し、警察・憲兵隊車両を何台も焼き払うという、手が付けられないほどの狂暴な行為に及ぶという騒ぎも起こっています。農業用の貯水池建設を予定している場所なので、大変広い草原のようなど田舎なのですが、あまりの狂暴さに治安維持部隊が発射した催涙ガスや包囲解除手榴弾などは、4,000発以上にも及んだと言われています。現場の警察・憲兵隊は安全確保のために逮捕に人員を割けない(逮捕時には犯人連行のための人員が割かれるため、少人数化した警察・憲兵隊の命が危険に及ぶため)ほど、悲惨な状況で、暴れた者たちは野放し状態になっています。

数年前の黄色いベスト運動の時もかなり大規模な反乱ぶりでしたが、幸か不幸か、パンデミックのために、フランスは急にロックダウンになり、ウィルスとともにデモもロックダウンされた形で勢いを失いました。今回はロックダウンのような政府にとっての手助けはありません。そもそもこのように激しやすい国民をかかえたフランスでなぜ、49.3条のような法律があるのかも疑問でもありますが、「改革が遅れれば遅れるほど、事態は厳しくなる」という政府の気持ちはわからないことはありませんが、パンデミックからようやく立ち直りつつあると思ったら、今度は戦争、止まらないインフレ、と生活が厳しくなっている中で、タイミングとしては、あまりよい時ではなかったかもしれません。

パリのゴミに関しても、これまではパリ市のゴミ収集業社だけであったものに、今週からは民間のゴミ収集業社までもが無期限ストライキに入ることを発表しています。まだまだフランスの年金改革問題、49.3条問題は当分、おさまりそうにないのです。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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