パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
パリ市内の公立病院の救急治療室で起こった強姦事件
パリ市内の公立病院に救急搬送された34歳の女性が、搬送先の病院の救急治療室で強姦されるという痛ましい事件が起こり、やはり、パリは、病院でさえも安全ではないということを思い知らされ愕然としています。
事件は10月末に起こったことのようですが、被害者が病院相手に「病院の救急治療室という安全であるはずの場所で命の危険に晒された」と病院側を訴えたことから、事件が公になりました。しかし、この事件がすぐに明るみに出なかったことを考えれば、もしも、被害者の女性が泣き寝入りをしていたら、事件は公にならなかったわけで、公になっていない病院での事件は少なからずあるのではないかと思ってしまいます。
救急搬送時から獲物を追ってきた容疑者
事件は10月末のある日の深夜に起こったもので、セーヌ川沿いのバーで飲んでいた女性が気分が悪くなり、外に出て風に当たりながら歩いていたところ、ふらついて転倒し、転んで地面に頭を打ち付けてしまい、女性はしばらく反応がない状態で、頭に怪我を負っていたこともあり、周囲の人が救急隊を要請し、午前1時20分に彼女は近隣のパリ14区の公立病院に救急搬送され、処置の後、個室に収容されていました。
彼女は気を失ったまま、病院内の救急治療室の個室に寝かされていましたが、午前4時ごろ、彼女は痛みと自分に覆いかぶさる男の乱暴に目を覚まし、悲鳴を上げたところで看護師がかけつけ、容疑者の男は慌てて逃走しました。
この男、実は彼女が搬送される前から、彼女をつけまわしていた模様で、彼女が転倒した現場にいた周囲の人の証言によると、彼女が倒れたこのバーの近辺をうろついていて、地面に倒れた彼女を飢えた目をして執拗に眺めていたと言われており、バーのオーナーは警備員の一人にこの男を追い出すように依頼したと証言しています。
しかし、驚くことに、追い出された男は、それから約1時間後に自分もアルコールに酩酊したふりをして、救急車を呼んで、まんまと救急隊は、彼女の収容された同じ病院にその男を救急搬送してしまったのです。まさか、この男がこんな犯行に及ぶことなど思い至るはずもなく、救急隊は地域の病院に患者を搬送するというあたりまえの任務を果たしただけなのです。パリ市内にあるこの公立病院は歴史もあり、広い敷地の中に数棟の建物が立っており、普通に訪れても彼女が収容されている場所を探し出すのは容易なことではなく、実際に患者として潜り込むのは、一番簡単に彼女に近づく手段であったのです。
事件が起こったのは、パリ市の史跡まで建てられている有名な病院 筆者撮影
この男は、自分では歩けないと言いながら、車椅子を押してもらいながら、彼女が寝かされている病室と同じ廊下沿いの部屋に連れていかれた(連れて行ってもらった)のです。看護師が彼を病室に収容して部屋を立ち去ったのを見計らって、彼は彼女のいる病室を探し回り、途中、一度、部屋を探し回って廊下を歩いているところを看護師に遮られていますが、その後、再び彼は獲物を求めて探し回り、犯行に及んだわけです。
その後、犯行時に被害者の悲鳴で看護師がかけつけたために、犯人は慌てて逃走しましたが、逃走の際に彼女の持っていたクレジットカードを盗み出しており、彼はその約1時間後に、このカードで食料品の買い物をしたところで逮捕されており、強姦に加えて、抜け目なくカードを盗んだつもりが、そのカードから足がついて、逮捕されたので、したたかなのか、抜けているのか、よくわからないところです。
容疑者は不法滞在のOQTF(退去命令)対象者
逮捕後、警察で行われた検査の結果、彼からはアルコールは検出されなかったものの、大麻とコカインの陽性反応が検出されています。容疑者の供述によると、22歳のヨルダン人ということですが、フランスには2019年に不法入国をしており、すでに3回のOQTF(フランス領土からの退去命令)を受けており、しかし、その3回のOQTFは、それぞれ別のID(名前・国籍等)で発行されており、一体、彼が本当は何者であるのかは、OQTFを出している側も把握できておらず、別のIDに成り代わることで、この退去命令を回避し続けてきたと思われます。そのうえ、彼は昨年から亡命申請を行っていたために、退去・国外追放が保留されていたとも言われています。
移民問題については、度々、問題視される案件でもあり、人手不足を解消するために該当する業界で就労する移民は積極的にビザを発行していこうとする動きとともに、不法滞在者、特にOQTF対象者に関しては、指名手配リストを作成して徹底的に追跡すると先日、発表されたばかりのこと。しかし、このOQTF自体、彼のように複数の名前で手配されている以上、一体、いくつの名前を持っているのかも不明で、追跡の難しさが垣間見える気がします。
今回の容疑者に関していえば、彼は窃盗、盗品受け取り、薬物使用などで何度も逮捕されており、IDをいくつも(少なくとも13の身分を持つ)持っており、いわば札付きの危険人物であり、犯罪を犯すたびに、名前を変えている節があります。
この強姦事件は、事件現場が安全であるべきはずの公立病院の救急治療室であるということだけでも震撼とさせられる話ではありますが、同時に容疑者が不法移民であったことから、再び移民問題が浮上する火種となった感じもするのです。
病院は決して安全ではないという認識
私自身は、20年以上もパリにいて、幸いなことに入院したことはありませんが、あまり病院に良い印象はありません。一度だけ、職場で階段を踏み外して怪我をした際に公立病院の救急にお世話になったことがありましたが、夜だというのに救急センターは人で溢れかえり、地獄絵図のような光景の中であまりに長時間放置されたために、同行してくれた夫がブチギレ、「ここから救急車を呼ぶぞ!」と一喝してくれたことで、ようやく診てもらえたことがあり、私一人だったら、いったいどうなっていただろうか?と途方に暮れたことがありました。
また、その夫も以前に、大きな交通事故の手術の際の輸血の際に肝炎にかかり、その上、体内にガーゼを置き忘れたまま、閉じられてしまうという目に遭ったことがあります。また、以前の職場の同僚が大腸癌にかかり、数回にわたり手術を受けていましたが、縫合不全で手術のやり直しになったうえに、入院中に病室に保管してあったバッグを盗まれたことがあって、ただでさえ闘病中で苦しい思いをしている彼女は、お財布やカード、アパートの鍵、健康保険のカードなど全てを失い、クレジットカードを止めたり、保険のカードの再発行をしたり、アパートの鍵をつけなおしたりと、ただでさえ、体調が悪く、苦しんでいる彼女には大変な負担でした。
しかし、病院での盗難事件は決して珍しいことではないようで、その旨を看護師さんに伝えても、特に驚いた様子もないのには、さらに驚きでしたが、フランスの病院はそういうところだ・・病院とて決して気を抜けない危険なところだという認識が確固としたものになりました。
Assistance publique - hôpital de Paris (AP-HP) (パリ公立病院)労働組合は、今回の事件は深刻な人手不足が招いた結果であると声明を発表していますが、ただでさえ、人手不足で喘いでいる病院で、看護師が警察官のような警戒の役割をしなければならないのかどうかは、疑問があるところではあります。被害者の弁護士は、彼女はレイプの被害そのものとともに、病院の救急治療室という安全な場所であるべきはずの場所で襲われたという二重のトラウマを抱えてしまったと病院の安全管理に問題があったのではないか?との訴えを表明しています。
いずれにしても、できるだけ病院のお世話にはならないように怪我はもちろんのこと、健康にも気をつけて暮らさなければと強く思うのでありました。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR