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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

安倍元首相の国葬は、日本のイメージを悪化させただけ

フランスで日本の国葬に関するポジティブな報道は見られない      Pixabay画像

日本での安倍元総理の国葬にまつわる論争が激化していた中、私は、フランスではこの国葬がどのように報道されるのかを注目していました。ひととおりのフランスの報道機関による、この日本の国葬についての報道は、どれも似たり寄ったりで、国葬儀そのものよりも、その背景に焦点が当てられ、この国葬に対して国民の約6割が反対していること、またこの意見は日本では珍しい数千人単位のデモが起こり続けてきたこと、国葬儀の1週間ほど前には抗議のために首相官邸前でガソリンを被って火をつける人までいたこと、1,200万ユーロという税金がつぎ込まれたこと、日本政府が見込んでいた海外からの要人の弔問客もG7の現職の首脳は現れなかったこと、これにつれて、現首相の支持率が急落したことなどに言及しています。つまり、ポジティブな要素はまるでありません。

日本の国葬翌日の仏紙ル・モンドでは、「7月8日に選挙演説中に暗殺された安倍元首相の国葬は、国民の強い不満を呼び起こし、岸田現首相の支持率を著しく低下させた。誰からも何の疑問を抱くこともなく行われた世界的な影響力を持ったエリザベス女王の国葬は、イギリス国内だけでなく世界中の人々の感動を呼び起こし、この日本の国葬とのコントラストを際立たせた」と書いています。

安倍元首相暗殺から国葬までのフランスでの報道の経緯

安倍元総理が暗殺された日は、その当日からフランスでも速報が流され、日本から生中継の映像が流され、その衝撃の大きさは相当なものでした。安倍元首相は、近来の日本の首相の中では海外でも抜群に知名度があり、首相を退いた後もその発言には、現職の首相以上に注目されていた感じでした。しかも、それが選挙演説中の、世界一安全なはずの日本での銃による暗殺という事件はかなりセンセーショナルでもあり、マクロン大統領をはじめ、世界各国の首脳が弔意を示すメッセージを次々と発表している様子などが伝えられていました。

この事件直後の報道では、民主主義への攻撃は許されないという正論も手伝って、「日出ずる国は、日本の近代史における重要な家系の純粋な家系図を失い、日本の歴史に長い歴史を持つ日本の政府首脳が初めて暗殺された暗い日として、永遠に刻まれることになるであろう」、彼の出自についても「19世紀以降に大きな影響力を持った安倍、岸、佐藤という苗字を持つ家系であり、真の日本の王朝物語、安倍氏はその生涯を武勇伝として残した」と神格化されたような報道ぶりでした。

しかし、それからまもなく、事件の背景にある真相(統一教会との繋がり)が明らかになるにつれ、彼の評価が一転するだけでなく、この事件の真相に関わる重大な問題を選挙が終わるまで曖昧にして伏せてしまう日本の政府と警察、マスコミについての辛辣な批判が始まりました。「投票日までの48時間、日本の大手メディアは膨大な人的・物的資源(全国紙5社で9,355人の記者)を導入して、事件の情報収集に当たっており、事件現場にはヘリコプターが飛ばされ、事件現場は模型で再現され、きめ細かく検証されているかのごとく報道している一方で、堕落した日本のマスコミは、これだけの人的・物的資源を導入が単なる水増しされた動員、導入であるかを物語るかのごとく、愚かしいニュースを流し、驚くことに安倍晋三が殺害された翌日、日本の大手5大新聞は全て同じ記事を一面トップで掲載し、書体の大きさも含めて一言一句違わないのは、彼らの共犯関係を裏付けている。もはや日本の主要メディアは機能していない」と書かれていました。

そして、その後は、安倍晋三氏と統一教会の問題、日本での統一教会の被害について、また100人以上の現職の国会議員(その大半が自民党)が統一教会との関わりがあるという事実などが着々とフランスでも報道されていました。仏フィガロ紙では、「日本における統一教会の驚異的な影響力」と題して、「数千人の統一教会信者の前で晴れ晴れとスピーチする衆議院副議長は、日本で非難を浴び続けている宗教団体の集会に参加したということで、当然、本来ならば、彼の政治生命は絶たれるはずだが、安倍晋三の下ではそのような付き合いは無害どころか、高く評価されていた・・」と報道しています。

事件直後のフランスのツイッターのトレンド1位は「Shinzo Abe」でしたが、それからまもなくすると、「Shinzo Abe」と検索すると「Shinzo Abe secte moon」(安倍晋三 統一教会)と出てくるようになりました。

次の段階でこの話題に注目が集まり始めたのは、現在の民主主義体制では国葬は規定されておらず、この点に関する法的根拠はないにもかかわらず、国会も通さずに岸田首相が国葬を行う決断をしたことや、そのことに反発する国民の声が大きくなり、7月末に行われた世論調査で53%以上の国民が反対しているという段階で、岸田内閣が支持率の急激な低下に押されて、9月に行われるはずだった閣僚の入れ替えを早めたものの、依然として不評をかっていることなどが伝えられていました。

9月に入り、「マクロン大統領は安倍元首相の国葬には参加できない(しない)」と返答したというニュースが一瞬、流れましたが、その時には、上記した内容の報道がさんざんフランスでもなされていたので、至極、当然の成り行きであると思われていました。国葬を機に弔問外交を行うと見積もっていた日本政府にとっては大誤算で、結果として、G7(主要7カ国)の現職の首脳は一人も参加しないものとなりました。

極め付けのエリザベス女王の国葬

そして、強硬に国葬を開催しようとしている日本政府にとっては、これでもかというタイミングでエリザベス女王がご逝去され、フランスでは、その国葬までの1週間ほど、まるで自分の国の女王か?と思われるほどのエリザベス女王・イギリス王室フィーバーが巻き起こり、非のうちどころのない国葬の様子を密着で報道しました。安倍元首相が暗殺された時には、エリザベス女王からの弔文が送られたというのに、このとんでもない顛末には、唖然とさせられるばかりです。もはや比較の対象にするのが失礼なレベルですが、もちろんエリザベス女王の国葬に関しては、きちんと国会で決議され、反対する国民どころか、女王の棺と対面するための一般の弔問客の列が4日半も途切れることなく行列したのは25万人、国葬当日に沿道に駆けつけた人約10万人、全世界からの現職首脳2,000人が参列、全世界で40億人がこの国葬の模様を視聴したと言われています。

そんな今世紀最大のため息が出るほど美しいイギリスの国葬の後の日本の国葬は、そのお粗末さどころか、日本の粗を露呈する以外のなにものでもなく、もはや報道に値するのはその国葬儀自体よりも、そのことによる日本国民の分断やスキャンダルでしかありえなくなったのです。

スキャンダルの深掘りへ

この日本の国葬儀と国民の反発、統一教会問題から、さらに、フランスのメディアは、統一教会以外の安倍氏に対する問題追求、批判はさらに厳しくなりました。「9年近くも政権を維持したのは記録的な長さであり、国際的にも多くの功績を残したが、内政面ではもっと複雑な問題を抱えている。安倍晋三は、その超保守的な姿勢、悪化したナショナリズム、労働者よりも大企業にはるかに有利な経済政策、そして彼の職務を汚す政治・金融スキャンダルなどで多くの批判を浴びており、分裂的な人物である。彼の首相引退も世間的には、健康上の理由ということになっているが、実際には、政治・金融スキャンダルによるものであった」など、当初は「真の日本の王朝物語、安倍氏はその生涯を武勇伝として残した」とまで言われた安倍元首相は、国葬によって、より過去のスキャンダルに注目され、それが印象づけられることとなりました。

そして、それは、安倍元首相だけには、留まらず、この国民の60%以上が反対する国葬を民主的な協議も行わずに強硬した現岸田首相への非難にも繋がっています。仏経済紙レゼコー紙は、「Fumio Kishida Mr Nobody」と題して、「日本の首相は国葬で自分の野望の喪失を悼むことになるだろう」「白い花壇の前で喪に服すとき、首相は自民党が自分に託した期待も喪うことになる」「保守派の仲間たちが岸田文雄を指名したのは、わずか1年前のことだったが、ほぼ企業だけが儲かったアベノミクスに対する改革もこの気弱なリーダーは、事実上、すべての改革プロジェクトを放棄している。そのため、彼の人気は野望とともに崩れてしまった。そこへ来て、安倍晋三の暗殺で明るみに出た、多くの自民党議員と統一教会とのつながりのツケも回ってきた。それに輪をかけるようにこの過半数を超える世論を無視し、野党の説得もできずに強硬した国葬は、さらに彼の支持率を奪った」とかなり辛辣に述べています。

だいたい、国民の半数以上が反対していることを強硬的に行うということはフランスでは考えられないことです。フランス政府がこのようなことを強行すれば、巻き起こるデモや氾濫は日本の非ではありませんから、フランス政府は非常に世論に対して敏感に対応します。同意を得られなければ、きっと何としてでも説得しようと試みるであろうし、それを無視して強行するなどということは、それこそ民主主義国として許されないと国民は大荒れに荒れることでしょう。今回の日本の国葬(国葬儀)の開催は、フランス人には理解できないことだったのです。

こうして、フランスでの安倍元首相の暗殺事件から国葬までの報道の経緯を辿っていくと、この事件をきっかけに、どんどん日本へのネガティブイメージが膨らんでいったように思います。安倍元総理を全否定するつもりはありませんが、その後の問題処理対応一つ一つで、みるみる日本のイメージを悪化させてしまった気がして残念でなりません。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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