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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

シャルル・ド・ゴール空港でのホームレス射殺と死刑制度

デモ隊を警備する憲兵隊・・・ とにかくイカつい武装                    筆者撮影

バカンスシーズン真っ只中のフランスで、パリ・シャルル・ド・ゴール空港のターミナル2Fで警察官がホームレスを射殺するという事件が起こりました。シャルル・ド・ゴール空港のターミナル2Fといえば、私も利用する機会がまあまあ少なくないターミナルで、日本行きの飛行機はこの2Fか、すぐ隣の2Eであることが多いため、そんな場所での発砲事件といえば、ことのほか、ぞっとさせられる事件です。

事の発端は、空港内をパトロール中の空港警備員が空港内に滞在していたホームレスに退去を要請したところ、ホームレスの男はこれに応じず、国境警備隊の警察官(PAF)が応援にかけつけ、男は警察官から腹部を殴られた末に、一旦、空港から退避したかに見えました。しかし、これに逆上し、警察官に殴りかかろうとした男は退去したとみせかけ、自分のキャディからナイフを持ちだし、ナイフを持って警察官に襲いかかろうとしたようです。凶器を手にした男に向かい、警察官はナイフを捨てるように数度にわたり警告をしたものの、男はこれを聞かずに警察官に対する攻撃をやめなかったため、警察官が発砲し、(発砲は1発だけの模様)その場で男は射殺されたということです。

射殺されたホームレスの男はマルティニーク出身の32歳の男で以前から辺りを根城にしていたようですが、最近は攻撃的な態度を示すようになっていたという証言もありますが、テロ発言はしていないことから、彼の行為がテロ行為であったとは見られていません。

空港にナイフを振り回す男がいることは物騒で危険なことではありますが、そのナイフは一般大衆に向けられたものでもなく、警察官からの退去命令のいざこざに端を発したもので、ましてや男1人に対して、警備員を含め、国境警備隊の警察官は複数名いたはずで、この状況で果たして射殺する必要があったのかどうか、私は激しく疑問を感じるのです。

銃を発砲するハードルが低くなっているフランスの警察官

少し前にも、パリ18区の路上で、お昼頃、車の検問にあたっていた警察官3人が検問を拒否した車に発砲し、1名が死亡するという事件が起こっています。警察発表によると、この時、車に乗っていた4人のうち1人がシートベルトをしていなかったために、車を停めて検問しようとしたところ、運転手は検問を拒否して逃走、しかし、車は渋滞に巻き込まれ、自転車に乗った警察官が車に追いつき、車を停車させるように再度、呼びかけると車は警察官を振り切り再び車を発進させ、自転車に乗った警察官を転倒させてしまいました。その後、3人の警察官は車に向けて10発も発砲。現場の目撃者によると、弾丸は車のタイヤにも命中し、車は他の車に衝突しました。警察官の撃った弾丸は車のタイヤだけではなく、運転手の胴体、同乗者の一人の頭部に命中し、二人とも救急搬送されましたが、頭部を撃たれた同乗者は翌日、死亡しました。

この事件が起こったのは、モンマルトルの丘のふもと、クリニャンクール通りとカスティーヌ通りの交差点で、特別に危険な場所というわけでもありません。情報によると、乗客の何人かは警察に知られている人物で、事件当時、アルコールや薬物を使用していたとも言われていますが、もともと、シートベルト未着用での検問からの逃走に拳銃を発砲するなど、あり得ないことです。車を止めるために拳銃を発砲した警察官の身柄は拘束され、この事件は、国家警察総監部(IGPN)に委託され、「公権力を持つ者の自発的な故殺(故殺未遂)、武器による意図的な暴力」で捜査が開始されています。

この事件が明るみに出たことで、同様の事件がパリ1区のポン・ヌフ通りで検問を強行突破した車の運転手と助手席の同乗者を銃撃して殺害するという同様の事件が起こっており、警察官は、「任意過失致死罪」で起訴されていることも発覚しています。

警察側の発表によれば、暴力のために負傷している警察官は1日あたり110人だそうで、治安の悪化、凶悪化とともに、「命を張って仕事をしている警察官にとっては、警察側も攻撃されることから身を守る術を取らざるを得ない場面もある」としています。

フランスの死刑制度廃止から40年

まことに治安も悪く、物騒でもあるパリではありますが、こう警察官に容易に銃を使われる傾向というのは、なかなか見過ごせるものではありません。パリはフランスの中でも極端に警察官の多い場所、それだけ人も多く、治安も悪いところではありますが、果たして銃殺に正当性があるかどうかについては、疑問も多い場面での事件が目立つ気がしてなりません。

フランスは死刑制度反対の態度をとっている国であり、昨年10月には死刑制度廃止40周年を迎え、これを記念するイベントや公演などが行われていました。死刑制度は犯罪の抑止に繋がるものではなく、「死刑は社会を擁護するものではなく、それを不名誉にするもの。死刑制度は人類の恥である」という立場をフランスはとっています。この死刑制度廃止40周年記念の公演で、マクロン大統領は、2020年に世界中で行われた483件の「国家殺人」を強く非難し、普遍的廃止のための戦いを新たにする決意を述べていました。現在でも死刑制度を取り続けている日本も槍玉にあがるのではないか?と私はこの時、内心ヒヤヒヤしていましたが、この際、死刑制度に対する議論が日本でも起こるべきではないかとも思っていました。

「死刑制度は人類の恥」とまで言い張り、いかにも人命を尊重する姿勢をとっているフランスにありながら、こうも簡単に警察官が銃を発砲し、犯人を銃殺してしまう社会というのも、どうにもおさまりのつかない気がします。相手が銃を持っている場合やテロなどの大掛かりな被害が緊急に予測される事態ならばともかく、たかだか1人の男がナイフを振り回したところで、警察官が何人も取り囲んでいる状態ならば、銃を発砲する事態であったとも思えません。警察官が犯人を銃殺するというのは、いわば、警察官の判断で犯人を死刑にするようなもので、これが横行する社会では、死刑制度に異を唱えても、あまり説得力がない気もしてしまいます。

とはいえ、死刑制度については、日本でも、再び議論し、再考すべき問題であると思っています。私は個人的には、死刑制度には反対です。被害者感情その他を考えれば、凶悪な事件を犯した犯人を許せない気持ちはありますが、死刑にしたところで根本的な解決を促すものではなく、犯罪の原因究明はとことん行われるべきで、ましてや冤罪などの可能性がある場合の死刑囚とているわけで、この「死んでお詫びをする文化」には、疑問があります。事件を起こした犯人には、少なからずその社会的な背景はあるはずで、それをとことん究明することが必要で、犯人が死んでも、解決すべき問題は取り残されてしまうのです。

とはいえ、パリが物騒なことに変わりはなく、街を練り歩く警察官のイカつい武装や憲兵隊などが抱えている拳銃やライフルなどには、ギョッとさせられることもしばしばです。こんな警察官の発砲事件を聞くたびに、どこからやってくるかわからない犯罪者に恐怖を感じるだけでなく、街で見かける警察官や憲兵隊の銃に、別に悪いことをしているわけでもないのに、なんとなく怯える気持ちにさせられるのです。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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