シリコンバレーと起業家
株式投資型のクラウドファンディングによるスタートアップ投資の民主化
──近年、エクイティ(株式投資)型のクラウドファンディングを行うスタートアップが増えているように感じますが、これはどういった背景なのでしょうか?(聞き手:中屋敷 量貴)
内藤:もともとエクイティ型のクラウドファンディングが有名になったのは、米国のスタートアップのデータベースを運営するAngelListがシンジケート投資という仕組みを始めたことが大きく影響しています。AngelListの共同創業者であるナヴァル・ラヴィカントはUberやTwitterなど有名なスタートアップの初期投資家でもあり、彼のようなエンジェル投資家がクラウドファンディング的な仕組みを使い、エンジェル投資にレバレッジを効かせるためにシンジケート投資をスタートしました。彼のように有名なエンジェル投資家が探し出してくるスタートアップに一緒に投資をしたいという人は多く、小口の資金で彼らと共同投資できる仕組みがシンジケート投資です。
エンジェル投資の場合、数百万円から数千万円程度投資するケースが多い中、シンジケート経由の投資であれば数十万円のような、より低い金額でスタートアップに投資できるため、今までスタートアップに投資ができなかった個人がスタートアップ投資に参加できるようになり、シリコンバレーでは数年前に一部この手法が人気になりました。また、スタートアップ側も契約書上ではサイン一つで多くの投資家から資金を集められるので、実務的にも楽なことが利点です。
その後、有名な投資家や起業家がシンジケート投資を始めたり、FoundersClubやRepublicなどが会社としてこの投資の仕組みを採用してきました。
弊社Anyplaceも、実際にUberの初期投資家であるジェイソン・カラカニスが率いるシンジケートと、CoinbaseやInstacartなどに投資をしてきたFoundersClubからそれぞれ数千万円程度集めましたが、両者の違いはデューデリジェンスの仕方にあり、ジェイソンのシンジケートでは彼ら個人がデューデリジェンスするのでよりエンジェル投資に近いプロセスである一方、FoundersClubやRepublicはよりVC的に慎重にデューデリジェンスをする点が違いかと思います。
──エクイティ型のクラウドファンディングによるデメリットなどはあるのでしょうか?
挙げるとすれば、投資する人を会社が選べない点です。例えば、Anyplaceの場合、誰がジェイソンのシンジケートに参加している人は公開されていませんし、FoundersClubでも参加している投資家が許可しない限り、会社側が誰が実際に投資しているのかを知ることができません。この点で、きちんと投資家のバックグラウンドチェックが出来ているのかはスタートアップ側でコントロールできないところなので少し怖い点ではあります。
ただ、基本的には信用のおけるシンジケートの運営者を経由すれば、すぐに投資のコミットが集まるのと、調達額以上に集まった場合はオーバーサブスクライブとして資金を調達することもできるので便利です。また、シンジケート経由で投資をしてくれた人を繋いでくれるケースもあるので、何か困っていることがあれば多くの人からサポートを受けられるという点は利点だと思います。ちなみに、適格投資家の要件を満たしていれば日本からでもシンジケート経由でスタートアップに投資をすることが可能です。次回はAngelListが新たに発表したRoll Up Vehicleという新しい資金調達の仕組みについて話そうと思います。
著者プロフィール
- 内藤聡
Anyplace共同創業者兼CEO。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、ホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。ブログ『シリコンバレーからよろしく』。@sili_yoro