シリコンバレーと起業家
シリコンバレーのマイアミ移住
──近年サンフランシスコやニューヨークといった都市部からマイアミやテキサスへ移住する人や企業を見かけるのですが、これは一体何が起きているのでしょうか(聞き手:中屋敷 量貴)
内藤:2020年後半は都市部からの移住先としてマイアミがすごく取り上げられていた印象があります。というのも米国の著名ベンチャーキャピタルのFounders Fundのパートナーであるキース・ラボイスがコロナをきっかけにマイアミに移住し、彼が先頭に立ってシリコンバレーからのマイアミ移住を促していることが背景にあります。これに関して、一部ではTwitterなどでマイアミ移住の是非に関する議論がされていたりしましたね。マイアミ市長はこの機を活かしてスタートアップ誘致を積極的に行っていて、色々とPRしている動きもあります。
シリコンバレーからマイアミ移住の旗振り役であるキースさん自体はQuora、Eventbrite、Airbnb、Lyft、DoorDashといった名だたるスタートアップに投資をしてきた有名な投資家で、影響力のある彼が発信しているからこそ、ここまで大きな議論に発展したのかもしれません。
都市別のスタートアップの特色でいうと、シリコンバレー・ベイエリアは分野を問わずスタートアップにとって世界的で一番多くの企業を輩出してきた圧倒的な存在という印象がありますが、一方でニューヨークは出版、ファッション、メディアが、ロサンゼルスはエンタメ系が、ボストンはディープテックやバイオ系が都市ごとのスタートアップの特色としてあるのですが、コロナを機にマイアミが新たにスタートアップの都市として浮上してきました。
もともとマイアミ自体はテックやスタートアップの都市という印象よりもリタイア後に住みたい場所として話されることが多かったのですが、今はコロナによるリモートワークの普及やキースさんらの影響もありスタートアップの都市として注目を浴びています。
──なぜマイアミが人気なのでしょうか。
内藤:マイアミが人気な理由は気候が良いのに加えて、州の所得税がかからない点ではないかと思っています。コロナをきっかけにリモートワークでどこからでも働けるのであれば、別にリタイアするまで待たなくとも今からでも移住すれば良いじゃないかという感じでマイアミに移住する人が増えているのではないでしょうか。実際にAnyplace上でもマイアミ地域の予約がコロナを機に増えています。コロナ前は、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコといった都市部での予約が多かったのですが、コロナでリモートワークが可能になったことで、人々が都市部からマイアミのような地域に移動している印象があります。
東海岸のマイアミの立ち位置的には、西海岸の北にスタートアップのハブとなるシリコンバレーやサンフランシスコがあり、南に気候も良く人気なロサンゼルスという都市があるのと同様に、東海岸では北にビジネスの中心地であるニューヨークがあり、南に気候の良いマイアミがあるという東海岸のロサンゼルス的な存在です。そういう観点では、ロサンゼルスとベイエリアを行き来する人がいるように、マイアミに住んでいてもニューヨークの企業と仕事をしたり、行き来する人は多いのではないでしょうか。現在マイアミのあるフロリダ州に本社を置いている有名な企業だとMagic Leapという一時は時価総額が7,000億円近くあったAR系の企業があり、また大手投資ファンドのBlackstoneは新たにオフィスを開設しました。
一方で、色々と注目を集めているマイアミではありますが、投資のデータを見るとスタートアップのエコシステムとしてはまだまだこれからといった印象で、年間の投資額も1,000億円程度であり、サンフランシスコの6-7兆円と比べると規模の違い分かるかと思います。都市別のスタートアップの年間の投資額のリストのトップ10にも入っていないくらいに規模で、デンバーと同程度です。これはあくまで現状の数字なので、これからどのように変化していくかは気になるところですね。
著者プロフィール
- 内藤聡
Anyplace共同創業者兼CEO。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、ホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。ブログ『シリコンバレーからよろしく』。@sili_yoro