スペインあれこれつまみ食い
スペインでオリーブオイルの価格が高騰!生産大国に何が起きている?
一昔前、地中海式ダイエットと言うものが日本で流行しました。地中海式ダイエットとはギリシャやスペインなどの地中海沿岸の国々の食生活を取り入れた食事法のことで、健康的に痩せることができ長生きの秘訣にもなるとして注目を集めたダイエット法です。この地中海式ダイエットに欠かすことができない食材がオリーブオイル。日本人に大人気のスペイン料理にはオリーブオイルがたっぷりと使われており、世界3位の長寿国と言われるスペインの食生活に欠かすことのできない食材のひとつとなっています。世界のオリーブオイル生産量の半分はスペインと言うこともあり、手軽に摂取することができる健康食品としてこれまでスペインではどの家庭にも欠かすことができない食材であったのですが、最近そんなオリーブオイルにある変化が起こり始めています。
「黄金の液体」
ここ最近、スペインのメディアを賑わしているのがオリーブオイルの価格高騰についての話題。どうやら最近オリーブオイルの値段が過去最高と言われるほどに高騰しており、「こんなに高くては買えない」と消費者が頭を抱えているようなのです。一部メディアではこの手軽に買えるはずだったオリーブオイルを「黄金の液体」と表現し、価格高騰の凄まじさを伝えています。
これまで1リットルあたり4ユーロ程度が相場だったエクストラバージンオリーブオイル。しかし現在、多くのスーパーマーケットでこのオリーブオイルが1リットル10ユーロで販売されているというのです。急に倍以上に跳ね上がったオリーブオイルの価格に消費者の購買意欲は薄れ、オリーブオイルをヒマワリ油に代替えするなど国民のオリーブオイル離れが進んでいます。全国食用油精製業者協会(Anierac)の発表によると、今年7月までのオリーブオイルの販売量は昨年同時期に比べて18%減少している一方で、その他の植物油の販売量は増加傾向にあるのだそう。スペインの一般家庭の食卓に大きな変化が起きはじめていると言っても過言ではありません。
オリーブオイルが高級食材になった理由
オリーブオイル生産大国で起こっている異常なほどの値上げ。原因はここ数年問題になっている干ばつにありました。去年に引き続き今年もなかなか雨が降らないスペイン。本来なら開花の時期である春にまとまった雨が降り、その雨がオリーブの実をつけるのに大きな役割を果たします。しかし今年の春は雨が降らず、逆に夏のように暑い日が続いたことによってオリーブの花が焼け死んでしまい、さらに干ばつにより木自体が衰弱してしまったことから、今年のオリーブの収穫量が大幅に減少してしまいました。2022-23年のオリーブ生産量は約66万トン。これは過去15年間のスペイン生産量の平均値の半分に相当し、前シーズンと比較すると約56%もの減少となります。この記録的な不作がオリーブオイルの価格を大幅に押し上げる根本的な原因となりました。
盗難が急増
オリーブオイルの価格高騰に伴い、各地でオリーブオイルの盗難が相次いでいるようです。
先週水曜日、コルドバ市にあるエキストラバージンオリーブオイルの搾油所にて5万6千リットルものオリーブオイルが盗難に遭いました。またマラガ市の製造工場でも同時期に7千リットルの盗難が起こっており、オリーブオイルの価格高騰が始まってからこのような被害が後をたたないと言います。
また増加傾向にあるのが、スーパーマーケットなどでの万引き。専門家によると価格が20%上がると万引き率が5倍に増えると言われているようで、小売業者も警戒を強めています。中にはオリーブオイルにチェーンをつけたり、アラームをつけて万引き防止に努める店も出てきているようで、少し前まで手軽に変えていたはずのオリーブオイルはいつの間にか高級食材と同じ扱いになってしまいました。
各地で大雨が降るも・・・
このオリーブオイルの価格高騰を食い止める唯一の手段は雨。干ばつを解消しない限りはオリーブの生産量が増えることがないため、価格が下がることはないと言われています。そんな雨不足のスペイン。9月に入ってまもなく、各地で異常なほどの大雨が降りました。特に被害が大きかったのは首都マドリードがある本土中央部。道路に濁流が流れ、一部地域では家屋が水没するなど被害が出ているほか、現段階で3人の死亡者と3人の行方不明者が報告されるほどの大きな爪痕を残したのです。
農業漁業食糧省のルイス・プラナス大臣によると、オリーブオイルの価格が回復するためには「4週間大雨が降り続けること」が必須条件のようです。しかし今回の数日間の大雨では干ばつが回復するにはまだまだ不十分のようで、全国の貯水ダムの水量にもそれほど大きな変化は見られませんでした。スペインの食卓でこれまでのようにオリーブオイルを惜しみなく使えるかどうかは、これから冬にかけてどれだけ大雨が降るかにかかっているようです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon