日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
『ディアナ・トゥルヒージョ』NASAの第一線で活躍するコロンビア人
日本時間の2月19日朝に火星探査機「パーサヴィアランス」が火星に着陸しました。
パーサヴィアランスはNASAが火星に着地を成功させた5台目の探査機となります。
この探査機のミッションは火星に生命がいたかどうかを調査することで、今後2年に渡っての調査が予定されており、石のサンプルを持ち帰るという任務も控えています。
今までの探査機は「火星に生命が存在できるのか?」ということが調査の目的でしたが、近年火星に生命がいた可能性があると指摘する研究者が増えてきたことから、今回は「火星に生命が存在した証拠を見つけ出す」ことがミッションとなっているようです。
この出来事は世界中でニュースになっており、コロンビアでももちろんたくさんの報道機関が報じていますが、コロンビアの場合、パーサヴィアランスと共に大きく報じられている一人の女性の存在があります。
ディアナ・トゥルヒージョ
ディアナ・トゥルヒージョはNASAジェット推進研究所の航空宇宙エンジニア。
パーサヴィアランス着陸のスペイン語での実況を担当したことから「あのNASAのラテン女性は誰だ?!」と国内で注目が集まり、彼女の名前はその日のコロンビアのグーグル検索で最も検索されたワードとなりました。
ディアナは「スペイン語での初めての実況者」というだけでなく、パーサヴィアランスの重要なパーツの一つであるロボットアームの他、PixlとSherlocと呼ばれる2部分を担当するチームのリーダーであり、このプロジェクトの主要メンバーの一員なのです。
彼女のNASAでの活躍ももちろんですが、特に彼女のバックグラウンドに多くの注目が集まっているのでここで紹介したいと思います。
英語力ゼロ、300ドルだけ持って渡米
ディアナ・トゥルヒージョはコロンビアのカリで生まれました。2007年にラテンアメリカからの移民女性で初めてNASAアカデミーに参加し、今ではNASAの主要メンバーとなったわけですが、それまでの道のりは決して楽なものではありませんでした。
彼女が渡米したのは17歳の頃。離婚して一文無しになった母を養うのが目的でした。マイアミに渡ったものの所持金は300ドルで英語は話せなかったため、ハウスキーパーなどの仕事を3つ掛け持ちしながら語学学校に通う生活を数年続けていたそうです。
ある日、ディアナは雑誌でNASAで活躍する女性についての記事を見付けます。ディアナは彼女たちの多くが航空宇宙工学や薬学を学んでいることに気がつき「英語はあまり喋れないけど、数字だったら語学力は関係ない!」と、フロリダ大学にて航空宇宙工学を学びはじめました。
在学中にNASAアカデミーのプログラムメンバーに選出され、そこで出会ったNASAのロボット専門家であるブライアン・ロバーツ氏に「NASAで働きたかったら首都に近いメリーランド州に住んだ方がいい」とアドバイスを受け、即座にメリーランド大学に移籍しました。
ディアナはこの大胆な決断について「一年卒業が遅れる形になってしまったけど、アカデミーの運用マネージャーとしてNASAに携わることができたので意味があった」と振り返ります。
卒業後は人工衛星の製造や打ち上げを行っていたオービタル・サイエンシズに勤めたあと、夫と共にXプライズ財団に勤務。そこでNASAジェット推進研究所から声がかかり今に至ります。
80年代、麻薬絡みで治安が最悪だったコロンビアで育ったディアナ。星空を眺めている時間が心が休まる時間で、その頃から「宇宙には星や惑星がたくさんあるのになぜゴチャゴチャにならないんだろうか」と自問自答を繰り返していたそうです。そこから家族を支えるためにアメリカに移民として渡り、博士号や修士号も持っていないのにNASAのリーダーとして活躍するまでになった彼女の行動力と努力には目を見張るものがあります。
ディアナはEl Tiempoインタビュー内で「化学の世界にラテン女性がもっと増えて欲しい。子供たちには私と同じこと、またはそれ以上のことができると思って欲しいんです。女性たちは姿が見えないわけでも能力が低いわけでもないのでもっと声を上げなければいけません。私たちは男性同様に賢いのです」と女性たちにエールを送りました。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon