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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

ヤジディ教の聖地ラリシュを訪問

ラリシュの聖廟 ©筆者撮影

冬真っ盛りのイラク北部。私の暮らすアルビル市内は朝は5℃近辺、日中は15℃ほどと暑がりにとっては過ごしやすい冬の日々が続いています。

平地のアルビルはこのくらいですが、一時間も北に車を走らせればそこは一面の雪景色。

イラクの多様な気候をこの時期は特に感じることができます。

   

イラクの少数宗教・ヤジディ教の聖地へ

ヤジディ教はイラク北部に暮らすクルド人の中の少数宗教です。

12世紀頃にイスラム教の中から生まれた宗教と見られていますが、教義には「世界最古の一神教」とも言われるゾロアスター教や、太陽信仰を行う密教の一つであるミトラ教の影響を色濃く受けていると見られています。しかしその成り立ちも含め今も多くが謎に包まれる宗教です。

またヤジディ教は他宗教からの入信、他宗教への改心も禁じており、ヤジディ教同士の結婚のみが認められその子どもだけがヤジディ教になれる、極めて閉鎖的な宗教です。

ヤジディ教徒の中にはイスラム教に則り豚を食べない人もいますが、青色を「邪悪な色」として忌避したりと、他には特徴的な教義が存在します。

過去の記事でも紹介しましたように、ヤジディの人々は2014年の過激派組織ISISの侵攻により多くが虐殺や奴隷化の対象とされ、また多くの人々が欧州へと難民として避難をしコミュニティが破壊されました。それ以前からも特にイスラム教徒から「邪教」として見られてきた歴史があり、数百年に渡り迫害を経験してきました。

現在、世界に約150万人の信者がいるとみられており、その内の半数が聖地のあるイラクに、残りの半分は2014年以降に多くの人が避難をした影響で欧米諸国(特にドイツ)に散らばって暮らしています。

そんなヤジディ教の聖地であるラリシュを先日、友人たちと訪問しました。

   

ヤジディ教の聖地ラリシュ

ラリシュはクルド自治区の首都であるアルビルから車で北西に1時間半ほど、ダフーク県の山間の場所にあります。

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ラリシュの位置 ©Google

到着してまず最初に駐車場で行うこと、それは靴を脱ぐことです。靴は車に置いていき、普通のアスファルトの道を裸足、または靴下で歩いて行きます。

聖地ラリシュは全域が聖域とされています。そのために全域で土足厳禁とされているためです。

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©筆者撮影

この前々日に雨が降っており、道には少し泥が残っていました。その中を靴下で歩くというなかなか新鮮な体験でした。

ラリシュは山の間に斜面を活用され建造物が建てられており、急な坂道や階段がたくさんあります。

しかし全体的にはそこまで広い訳ではなく、1時間もあればだいたいの所を回れてしまいます。

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ラリシュ全域の地図 ©筆者撮影

この日は休日でしたが、巡礼に来ているヤジディの人たちを除いては観光客は私たちのグループだけでした。

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©筆者撮影

ラリシュに入り、そこら中から、特に子どもたちからドイツ語が聞こえてきたことでした。

私はドイツ語が話せるのである家族に話を聞きました。予想した通り2014年以降に難民としてドイツに逃れ現在はドイツ市民に。家庭内の言語もドイツ語になっているとのことでした。

ただこうして年に一度は子どもたちをラリシュに連れてきて、自分たちの信仰を伝えているとのことでした。

そうこうして歩いている内に、ラリシュ最大の聖廟へ。

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聖廟までの通路 ©筆者撮影

日本のお寺などで「山門の敷居を踏んではいけない」というしきたりがありますが、なんとヤジディ教の聖廟でも同じしきたりが存在します。中には敷居にお金を置いたり、キスをして通る人もいました。

聖廟の中には過去の宗教指導者たちの亡骸が安置されています。

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©筆者撮影

案内をしてくれたおじさんも、「何年前のものかは誰も分からない」と言っていたので、かなり古いものであることは確かでしょう。

そして最深部にはこのようにたくさんの土器が。中身を聞くと、オリーブオイルとのことでした。

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©筆者撮影

ここのオリーブオイルはラリシュ内のオリーブの木からのみ抽出されたもので、ラリシュで行われる宗教行事の火を灯すために使用されるとのことでした。

聖廟を抜け、全体が見える丘の上へ。階段や坂道はなかなか急で、しかも靴下で移動していることもありゆっくり登りました。

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ラリシュを一望できる丘の上 ©筆者撮影

見渡すと信者たちが車座になって指導者の話を聞いている場面なども見えました。

これはヤジディ教に限らず、ヤルサンといった他のイラクの少数宗教にも見られることではありますが、彼らは自分の宗教についてあまり語りたがりません。その宗教の閉鎖性からか、特にここに住むヤジディの人たちからは部外者を警戒しているのも感じ取れました。

今回のラリシュ訪問は、そういう空気感も含め、イラクの少数宗教について知る貴重な体験となりました。

アクセスはあまりよくありませんが、ぜひクルド自治区を訪問される際は、ラリシュにも足を伸ばしてみてください。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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