悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
ワクチンパスポートを使ったイラクへの帰還
先日、日本への一時帰国からイラクへと戻ってきました。
一時帰国で感じたことなどは次回以降の記事で書こうと思うのですが、今回はイラク帰還時にワクチンパスポートを初めて使用したこともあり、その経験をご紹介したいと思います。
イラクのワクチンパスポート
以前の記事でも書きましたように、私は今年の春に2回アルビルで新型コロナに対するワクチン接種(アストラゼネカ製)を受けています。
ワクチン接種を受けると、イラク国内で使える青い接種証明カード(上のリンク先記事参照)をもらえるのですが、それだけではワクチンパスポートまではもらえません。そのためには別に保健省、私の場合はイラクでも北部のクルド自治区に暮らしているので、クルド自治政府保健省に対して申請する必要があります。
自治政府は、ワクチン接種者も増えてきた9月頃に海外渡航者を対象としたワクチンパスポートの発行も開始しています。発行には約2週間かかり、手数料約1,500円もかかります。
個人情報もあるため隠している部分も多いですが、このカードにはパスポート番号、接種したワクチンの種類、その日付などが書かれています。また裏にはQRコードもあり、スキャンをするとクルド自治政府保健省のデータベースにアクセスができ、カードが本物であるということの証明もできます。
「意外としっかりしているんだなー」ともらった時は感心していました。
イラクまでの所要時間
イラク(主に日本人も渡航可能なアルビルなどクルド自治区)への渡航で考えられるルートとしては、カタール航空を使ったドーハ経由、エミレーツ航空を使ったドバイ経由、また少し遠回りになりますが、少し割安ルートとしてトルコ航空を使ったイスタンブール経由というものがあります。
私は所属団体の手配がいつもカタール航空なので、コロナ禍で運航を停止し一回エミレーツ航空を利用した以外ではいつもカタール航空を使っています。
ですのでトランジットで利用するドーハ国際空港の構造なんかもだいたい頭に入るようになりました。
2019年まではドーハ-アルビル間の便が一日2本(朝と夜)就航していたのですが、コロナ禍で利用者が減った影響で2021年現在は夜の便だけとなってしまっています。
その影響が大きく、成田-ドーハ間の便はいつもカタール現地時間の早朝5時頃に到着するのですが、今までは3時間ほどのトランジットだったのが現在は13時間も待つようになっています。なかなか骨身にこたえるトランジットです。
以前は一定時間以上のトランジットがある利用客には、ドーハ空港のホテルが無料でできるサービスがあったのですが、執筆時現在それもコロナ禍の影響で停止されています。
圧倒的時間短縮と少しの不安
コロナ禍がまだまだ多大な影響を与えていた2020年の8月。私はアルビル国際空港が再開されたことで半年ぶりにイラクに戻ることが叶いました。
その当時はまだ成田空港内でのPCRテスト会場もなかったので、前日に近くのトラベルクリニックで高額なPCRテストを受け、そして当日に重い荷物を持ちながら検査結果をもらい行き、その足で空港に行くということをしていました。(夏にスーツケースを転がしていたこともあり、アスファルトの熱でタイヤのゴムが溶けてしまいました...)
またカタール航空の職員も当時は対応に慣れておらず、本当に私がイラクに入国できるのかを確認するためにチェックインに1時間近くかかったのを覚えています。
今年初めの一時帰国からのイラク帰任の際は成田空港内にPCR検査場もができたこともあり、前日にわざわざPCRを受ける必要はなくなりました。
しかしここでもPCRを受けて結果が出るまでに4時間近くかかり、飛行機が22:00頃なのに検査を受けるために15時には空港にいないといけませんでした。当時は自宅から空港までの時間を抜いて空港に着いた時間から計算をしたとしても、これら全ての移動を含めてアルビルに到着するにはだいたい36時間近くかかったことになります。日本から見てヨーロッパの手前にある地域なのに、なかなかの長旅です。
またアルビル国際空港に着いた後も到着時のPCR検査を受けたり(結果は陽性の場合のみSMSで通知)、隔離の宣誓書を書いたりと、時間をとられての入国になっていました。
それが今回、ワクチンパスポートを使用できることになり圧倒的に時間が短縮されました。そもそもPCRテストを受けなくていいので成田空港には2時間前に着けば問題なし。午前中のアルビル便が復活していないために相変わらずの長時間トランジットはまだありますが、アルビル到着後は何にも書類やらPCR検査結果も見せる必要もなく、保健省の職員にカードを提示さるだけ。
ものの10分で入国が叶いました。恐らく今までの人生で最速の入国でした。
このように、イラク入国に関しては圧倒的に時間が短縮され、旅も比較的快適なものに戻った気がします。
しかし一つまだ懸念していることもあります。それは「イラクのワクチンパスポートがどれだけ今後認知されるか」という問題です。
現在、日本政府は11月22日以降で欧米諸国を中心に83ヵ国のワクチン接種証明書を日本入国時に有効なものと認定しています。しかし中東・アフリカ諸国はその内の10ヵ国しか入っていません。
もちろん偽装される危険もあり慎重になることは理解できますが、イラクの、しかもさらにその中のクルド自治区の接種証明書を持っている私はいつ日本に隔離なしで入国できるようになるのか少し途方もない気持ちになっています。
次の日本入国時には接種から10ヵ月以上になる予定なので、もしかしたら日本で追加接種が受けられるかもしれません。
それを期待しつつ、今はイラクでの生活を改めて楽しもうと思います。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino